「竜児」
 突然呼ばれて横を見ると、さっきまで寝転んでいたはずの大河が起き上がり、目を閉じて唇を突き出して。
 何で急に?と思わないではないが、可愛い恋人のおねだりを無下にするほど竜児も野暮ではなく。
 とりあえず見ていたプリントの事は頭の片隅に追いやって、大河の頬に手を添えて。


「なあ大河、急にキスねだるなんてどうしたんだ?」
 すっかり甘えん坊モードで身体を預けてくる大河の髪を撫でながら尋ねる竜児に、大河はきょとんとした顔で、
「なによ、竜児が誘ったんじゃないの」
「……はあ?」
 直前の記憶を探るが、そんな事実はどこにも無い。
「キスするかって、言ったじゃない」
 もう一度よく考えて……
「……大河、明日にでも耳鼻科に行ってこい。それとも今から耳掻きのほうがいいか?」
「何よそれは」
「俺は『寄付にするか』って言ったんだよ」
 言いながら竜児は、卓袱台の上のプリント――町内会チャリティバザー協力のお願い――を大河に見せる。
「泰子は店を開けるから無理だし、俺と大河だけじゃバザーに出店の手続きとか準備とかできねえだろ。だから寄付で協力するしかねえかって」
「……え?え?それじゃ、私が聞いたのは……?」
「だから、聞き間違いだろ」
 竜児の言葉に、桜色だった大河の頬がみるみる真っ赤に染まる。
「ん……」
「ん?」
「……んにゃあぁぁぁっ!」
 ――手乗りタイガーモード、発動――
「恥ずかしいからって暴れるんじゃねえぇぇぇっ!」



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