「ふわ〜〜〜ぁ……」
 竜児の目の前で、小さな顔が大きく大きく口を開ける。
「……おい大河」
「何よ?」
「またお前、休み前だからって夜中過ぎまでゲームやってたんだろ」
「ゲームじゃないわ、ネットよ」
「同じだ馬鹿。というかだな、人前でそんなに大口開けてるんじゃねえよ。もうちょっと我慢するとか、せめて口元を手で覆うとか」
「何よ、ばかちーみたいにかわいいフリでもしろって言うわけ?」
「そこまでは言ってねえけど、女子の嗜みとして恥じらいとかそういうものをだな」
「あのね竜児、あくびってのは自然発生的な深呼吸なの。恥ずべきことなんて何も無いのよ」
「そういう問題じゃねえ。お前、北村の前でもその言い訳出来るのか?」
「う……北村君ならきっと、そんなこと気にしないもん」
「おう、あいつならそうかもしれねえな。それでこう言うんだ。『おお、逢坂は実にいい歯並びをしているな。虫歯も無いようだし結構なことだ』って」
「そ、それは……」
「嫌だと思うなら、少しはお淑やかにするんだな」


 一週間後。
「ふわ〜〜〜ぁ……」
 竜児の目の前で、小さな顔が大きく大きく口を開ける。
「……おい大河」
「何よ?」
「この間注意したばっかりなのに、もう忘れたのかよ。男の前でそんなに大口を……」
「うるさいわね、憶えてるわよ。外では、特に北村君の近くではちゃんと気をつけてるもの」
「それじゃあ、何で……」
「あのね竜児、今ここには私とあんたしか居ないわけよ」
「おう、それがどうした?」
「竜児相手に今更恥ずかしがることなんて無いもの。だったら気をつかう必要だって無いじゃない」
「……そういう問題……なのか?」



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