「おうっ!?」
 ぱさり、と、手にしたタオルが洗濯物の上に落ちた。
 竜児はゴシゴシと目を擦り、意味も無く辺りを見まわし、深呼吸して気持ちを落ちつける。
 そして、そろそろと慎重にタオルを端からめくり……その下にあるものを確認してから再び元に戻す。
「……おう……」
 それは、白い布であった。具体的にはコットン100%。
 形状は、大雑把に言うと二つの三角形の頂点同士を繋げたよう。
 片方の三角形の長辺中央付近には、小さな赤いリボンのワンポイント。
 ……認めたくはないが、認めるしかない。要する所それは、俗に『ぱんつ』と呼ばれる物体であった。
「……あのドジ」
 洗濯(というか家事全般)を竜児に任せっきりの大河であるが、さすがに下着類だけは自分で洗っている。おそらく、その時に別にし忘れたのだろう。
「落ち着け、落ち着け。パンツなんて別に珍しくもねえじゃねえか……」
 確かに高須家家事担当の竜児は、日常的に泰子のそれを扱っている。
 だが、クラスメイトの女子の、
 隣に住む女の子の、
 逢坂大河の……ぱんつ。
「うう……」
 妙な緊張感と罪悪感が、竜児の心臓の鼓動を早くする。
「そ、そうだ、大河に言って回収してもらえば……」
『……見たわね』
 想像上の大河の声が一段低くなる。
『お、おう、そりゃまあ……』
『表から裏から……じっくりたっぷりねぶるように……』
『おい、大河?』
『匂いを嗅いだり……あまつさえ、あ、味わ……』
『ちょっと待て!?お前、俺をどんな風に……』
『殺す!絶対に殺す!!』
「……駄目だ、言えねえ」
 それならば、取れる策は。
「とにかく洗っちまって、こっそりしまっておくしかねえか……だけど……」
 しまうべき場所はわかっている。大河に絶対に開けるなと言われている引出しの中。
 そこを開ければ出迎えるであろうものは、おそらく十数枚のぱんつ。更には畳み方を確認するために少なくとも一枚は取り出さねばいけないわけで。その様は誰がどう見ても、
「……まるっきり変態じゃねえか……」
 命を捨てるか、恥を捨てるか。
 散々悩んで、結局竜児は恥を捨てることを選んだ。
「まずは、洗濯……しちまわねえと……」
 タオルを捲れば、あらわになる大河のぱんつ。
 ごくりと唾を飲み込み、意を決してそれを手にした瞬間。
 がちゃり。
「竜児ー、お腹すい……た……」
 扉を開けた大河の動きが止まり、その眼が見開かれていく。
「お……おう……」
「……こ……このド変態のドエロ犬ーっ!!」
「まて、誤解だーっ!!」


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