逢坂大河が興味深そうに見つめるのは、炊飯器の兄貴分といった風情の電化製品。
「ねえ竜児、ホームベーカリーなんてどうしたの?」
「おう、パズル雑誌の懸賞で当たってな」
「ふ〜ん……焼きたてパンが食べ放題か、いいな〜」
「パンだけじゃねえぞ。うどんとかの麺生地を練ったり、餅つきもできる優れ物だ」
「おもち?……おもち食べたい! ねえ竜児、もち米買いに行きましょ!」
「おい大河……今日は一緒にセンター模試対策の勉強するんじゃなかったのかよ……」
「腹が減っては戦は出来ぬって言うじゃない。さ、早く!」


 にょ〜んと伸びた餅が、大河の唇と箸の間に白い橋をかける。
「……やっぱりからみもちはつきたてで作るのが一番美味しいわよねえ」
「大河……食ってばっかりじゃなくて、お前も丸めるの手伝えよ……」
「ん〜……このホームベーカリーを信長と命名するわ。というわけであんたがしっかり捏ねなさい、猿」
「天下餅かよ……おう、そういえば家康といえば狸だもんな。お前はひたすら食べてお腹がぽんぽんになるってわけか」
「ぐ……」
「ほら、手伝えって。終わったら雑煮でも汁粉でも作ってやるから」
「……わかったわよ」
 言って大河は大きな塊をむんずと掴み、
「あ、なんかやっちゃんのおっぱいみたい」
「んぶっ!……お前なあ……なんつー例えをしやがる……」
「だって、前に触った時ちょうどこんな感触だったんだもの」
「そうなのか? だけど大河のはもっと柔らか……あ」
 失言に気づいた時には後の祭。大河は真っ赤な顔で胸元を押さえて。
「す、すまねえ、別に、その、わざと触ったとかじゃなくてだな、ほら、大河が抱きついてきた時とかに当たることがあったりするから……」
「……寝てる間にイタズラしたとかじゃ……ないわけね?」
「おう、俺はそんなことしねえぞ」
「それじゃ、触ったっていっても……服の上から、なんだ……」
「お、おう。だから安心しろ……ってのも変か」
「……ね、ねえ竜児……本当の柔らかさ……直接、確かめて、みる?」
「!?」



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