恋ヶ窪ゆりにとって憂鬱な朝が明ける。
本来なら教師生活初のクラス担任が始まる新学期、気合が入ってもおかしくない。
ゆりがそうなれないのはクラス編成にあった。

「恋ヶ窪先生もそろそろ担任を持ってみては?」
にこにこ顔の教頭にそう告げらえた時、ゆりはふたつ返事で引き受けた。
今思えば騙されたとしか言いようが無い。
担任を持っていない自分よりも先輩教師がいるはずなのに、なぜ自分に声が掛かったのか、良く考えるべきだったと・・・。

うきうき顔で渡されたあいうえお順で並ぶクラス編成表を眺めていたゆりの顔が次第に苦悶の表情へ変ってゆく。
・・・北村祐作。
うわ、ラッキー。クラス委員は彼で決まりね。
優等生で生徒会副会長の名前を見付け、楽なクラス運営が出来そうだとゆりはほそく笑んだ。

・・・高須竜児。
うわ〜。高須君。
鋭すぎる視線を思い出し、ゆりは慄く。
うんうん、怒らせなければ大丈夫・・・大丈夫よ。
自分へ言い聞かせるゆり。

内心、外れくじを引いた心境でクラス編成表の男子の列を読み終えたゆりが女子の列へ目をやった途端・・・。

うげ!

・・・逢坂大河。

見てはいけない名前を見付け、ゆりの頬がひくつく。
何かの間違いでしょ?・・・と何度も見直すが、2−Cの女子出席番号1番「逢坂大河」は消えない。


・・・理科や社会の選択科目を何で選んだかで決められたクラス編成。
偶然の一致がこの2−Cを産み出したとゆりはがく然とする。
いわくありげな生徒が織り込まれたクラス・・・他の教師が敬遠したからこそ・・・ゆりに巡ったチャンスだったのだ。

あんのはげ頭!
と、教頭をののしるももう引き返せない。
こうなれば・・・やってやろうじゃないの。
なけなしの闘志に火をつけ、ゆりは自分を鼓舞した。


かくして2年の新学期の朝を2−Cの面々は迎える。
鏡に向かってイメチェンを計ろうとする奴や寝坊してベッドでくしゃみをする奴・・・。
波乱万丈な1年になるとも露知らないまま・・・。


それは偶然の産物かはたまた悪魔の悪戯か・・・


「みのり〜ん・・・2年の選択科目何にした?」
「おうよ、よくぞ聞いてくれました。なんと倫理社会ぜよ・・・哲学・・・くか〜かっこいい」
「ん、じゃ私も同じのにする・・・倫理っと・・・理科は?」
用紙に丸をつける大河。
「生物にした・・・大河は?」
「もち、おんなじの」


「高須〜、2年の選択、決まったか?」
「迷ってんだよな、まだ。そういう北村は?」
「もう決めた。櫛枝と同じにした」
「く、櫛枝?」
竜児のトーンが高くなる。
「ああ、同じソフト部の女子だよ・・・打ち合わせとかしょっちゅうあるから同じクラスの方が何かと便利かなって思ってさ」
「そ、それで何にしたんだ?」
「倫社と生物」
「おう!」

北村が行ってしまった後で竜児はこっそり用紙を取り出すと、政治経済に付けた丸を消し、改めて倫理社会に丸を付け直した。




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