土曜日の朝。
「おばよー、りゅーじ」
「おうっ!?」
 竜児が驚くのも無理は無い。
 高須家を訪れた大河は頬を赤らめ、瞳を潤ませ、鼻水を垂らしていて。
「おい大河、大丈夫か?」
「ん〜……ちょっと風邪ひいちゃって」
 心配そうな竜児に、手渡されたティッシュで鼻をかみながら答える大河。
「だったら、無理してうちに来なくてもよかったのに……」
「あのね竜児、私の家には今弟が……まだ首も座らないような赤ん坊がいるわけよ。
 その弟に風邪うつしたら大変じゃない。だから、私はむしろこっちに居た方がいいの」
「おう……そうか?」
「という口実で、今晩泊めてもらおうと思ってたんだけど」
「お前……妙に大荷物だと思ったら……」
「来る途中になんかすごく調子悪くなってきちゃって……」
 言って大河はふらりと竜児にもたれかかる。
「おい!? 大河、お前すげえ熱いじゃねえか!」

『――御免なさいね、大河がいつも迷惑かけちゃって』
「いえ、そんな。迷惑なんかじゃないです」
『それじゃ、申し訳無いけどあの子の面倒見てやってもらえる?』
「はい、任せて下さい、お、お母さん」
『……そう呼ぶのはちょっと気が早いんじゃなくて?』
「……すみません」
『まあ、悪い気はしないわね。じゃ、宜しくお願いするわ』
「はい。それじゃ、失礼します」
 受話器を置いて、竜児が向かうのは自室のベッド。 
 そこにはパジャマに着替えた大河が身を起こしていて。
「大河、熱どうだ?」
「ん〜……37度7分」
「やっぱり高いな……病院行くか?」
「やだ。だって今日の今からだと『あの』病院になるじゃない」
「いや、大学病院だから必ずしも『あの』藪医者にあたるとは限らねえけど……不安なのは確かか」
「気持ち悪いのもだいぶ落ち着いてきたし、普通の薬で大丈夫よ」
「そうだな、大河のお袋さんに聞いたけど、うちにある風邪薬でアレルギーにも問題無いみたいだし」
「それじゃ竜児、薬飲むからその前になんか食べる物頂戴」
「……いやまあ、確かになるべく食後ってなってるけど……ヨーグルトぐらいにしとけ」
「ん、それでいいわ」
「薬飲んだら大人しく寝とけよ、風邪には栄養と休息が一番だからな。俺はちょっと買い物に行ってくる」
「え〜、傍にいてくれないの?」
「薬局で冷えピタとか買って来るんだよ。あとちょっとスーパーにも行くけど、極力早く帰ってくるから」
「それじゃ、寝る前におやすみのちゅーして」
「おい!?」
「お願い、そうしたら安心して寝てられると思うから」
「……お、おう」
「ごちそうさまでした」
「おう」
「ねえ竜児、晩ご飯は何?」
「お前、卵粥あれだけ食った直後にそういうこと聞くか?」
「ぶ〜、別にいいじゃない」
「……豚肉と葱買ってきたから、それで雑炊の予定だ」
「それならお肉多めでお願いね」
「まあ、食欲あるのは悪いことじゃねえか……」
「あ、そうだ、夜寝る時なんだけど」
「おう、大河はそのままベッド使ってていいぞ。俺はこっちに予備の布団敷くから」
「その布団、竜児の部屋に敷いてくれない?」
「え?」
「だから、一緒にっていうか、横で寝てくれないかって行ってるの」
「いや、それは……さすがにマズくねえか?」
「何よ、病気で不安な恋人を一晩放っておくっていうの?」
「そうじゃねえけど……その、なんだ」
「大丈夫よ」
「だけど……」
「大丈夫だって言ったら大丈夫なの。わかった?」
「……お、おう」


「おっはよう大河!」
「おはようみのりん」
「メールで言ってた風邪は大丈夫なのかね?」
「うん、もうすっかり」
「まあ高須くんの献身的な看病をうければ当然か。って、その高須くんは?」
「あ、その、それが……今度は竜児が風邪ひいちゃって」
「ほほう……それはひょっとして、二人で何か風邪がうつるようなコトをしたということかな?」
「っ!……そ、それは……」
「そのへんじ〜っくりと聞かせてもうらおうかねえ、大河?」




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