「今度、ここへ来るのは竜児の所へ帰る時なんだって思ったら、ちょっと不安になったんだ」
過去を振り返り、大河はその時の思いを口にする。
走り出した車の中で、そんな日が本当に来るのかと見えない未来が恐くて、後ろを振り向いた大河。
「でもね・・・絶対、幸せになって帰ってやるって・・・あの時、決心したんだ」
少し顔を紅潮させ昔を語る大河を竜児はまぶしそうに見つめる。
遠くから聞こえる歓声が、まだまだ時間のあることを知らせていた。
「竜児はどうしてた?・・・あの日、あの後」
「俺か?俺は・・・」






「大河ちゃん・・・来ないね」
「後で来るさ、それより早く食べないと遅刻するぞ」
伏せられたお椀に目を遣り、竜児は泰子を促す。
それじゃあと始まったふたりだけの夕食はそういつもと変わりがなかった。
ふつうに会話があり、箸も進む。
しかし、竜児の心はそこに無かった。


泰子が仕事に行ってしまうと竜児の寂寥感は激しさを増す。
ベランダへ出て大河のマンションを見つめる竜児。
明かりの漏れない窓がひとつ。
それを見ていた竜児を襲う寒気。
身震いするように部屋に引き上げた竜児は小さな吐息を漏らす。

もうそれは竜児にとってただのコンクリートの塊りに過ぎなかったのだ。


さっきの食事中、弾かれたように竜児は立ち上がり、玄関ドアを開け放った。
冬の寒い空気が竜児の頬を刺すが、そこには暗闇と街灯の明かりしか見えなかった。

行儀にうるさい竜児が普段ならしないような振る舞いに泰子が驚く。
「どうしたの?竜ちゃん」
やがて、とぼとぼと戻って来た竜児は何事も無かったかのように元居た場所に座り、食事を再開する。
「・・・あいつに呼ばれたような気がしたんだ」
「大河ちゃん?」
うなづく竜児。

竜児は知る由も無かったが、それはちょうど大河が大荷物を抱えながら路地の角へ消えたタイミングだった。



眠れぬ夜が明けるのを待ちかねて訪ねた大河の家で見つけた書置き。
予想していたこととはいえ、竜児には堪えた。

大河は・・・行ってしまう。
マンションへ戻る大河を見送った時、竜児はそう確信していた。

止められなかった。
いや、止めちゃいけないんだ。
これは、あいつの問題だから・・・あいつでしか解決できない。
だけど・・・黙って行かないでくれよな。
恨み言のひとつも言いたくなる竜児だが、大河が面と向かってそれを告げに来たら、その手を放せたどうか甚だ疑問だった。



「・・・竜児」
数日振りで聞く大河の声。

ついさっき、一日最後の家事を終えて、自室に引き上げた竜児。
まるでそれを見張っていた様に携帯電話が鳴った。
携帯電話のディスプレイに表示される大河から着信中のメッセージに竜児は慌ててボタンを押したのだ。


「・・・た、大河か」
「当たり前でしょ・・・誰だと思ったのよ」
「いや・・・落ち着いたか?」
「うん・・・ちょっとばたばたしたけど」
「そっか・・・良かった」
「・・・怒ってない?」
「何をだよ?」
「勝手なことしちゃって、その・・・ごめん」
「慣れてるからな・・・散々、振り回されたし」
「むう・・・そんなこと言うなら、切るから」
「ま、待て!早まるな!」
「ぷっ・・・嘘に決まってるでしょ」
「た、たいがあ〜」
「あ〜やだやだ、ちょっと会わないだけでなによ」
「そうは言ってもよお」
竜児の嘆きは続く。

「メールは送れたけど・・・声を聞くのは恐かったんだ」
何度も掛け様としてやっと掛けられたと打ち明ける大河。
「竜児が電話に出なかったらどうしようとか思っちゃった」
「そんなわけねえだろ・・・これぐらいのことで愛想をつかしたりしねえ」
「・・・竜児」
「何だよ?」
「ありがとう」
心に染み入るような大河の言葉に竜児は携帯電話を握る手に力が入る。
どれだけ自分が大河を好きなのかが再認識され、今さらながらに竜児を揺さぶった。


「今、すごくおまえのこと抱きたい」
思わず口走る竜児。
「・・・はあ?!・・・り、竜児?」
何をトチ狂ったことを言い出すのかと電話口で慌ててる大河の声。
「ち、違うんだ・・・その変な意味じゃなくて」
大河という存在をこの腕の中で確認したい・・・そういう意味だとうろたえた様に竜児は言葉を補足する。
「電話なら、大河の声は聞ける。でも、おまえの仕草も、笑顔も、怒った顔も見れねえ・・・温もりも感じられねえ・・・」
「・・・ん、分かるよ、竜児。私だって・・・」
竜児の側に寄れば微かに感じられた竜児の匂い・・・電話だと何も感じられない。
お互いの電話を通して聞こえる小さなため息。


「・・・それでも、こうして話が出来るだけでも恵まれてるよ、竜児」
「ああ」
「君が行く道の長路を繰り畳ね焼き亡ぼさむ天の火もがも・・・合ってる?」
「間違ってねえ」
大河が最後に登校した日にあった古典の授業。
都から遠い地へ旅立つ恋人同士の別れを歌った万葉集の解釈だった。
いつもなら寝ている古典の授業。
なぜかその日、大河は起きていて真剣に聞いていたのだ。
・・・通信手段も無い、遥か昔に詠まれた歌。その込めらた思いが伝わって来ませんか?
あの時、教師の講義を聞きながら、自分が福岡へ行ってしまったら、竜児はどう思うだろうと大河は想像をめぐらせていた。

「行方不明になったわけじゃないし・・・月に帰っちゃった訳じゃない・・・飛行機で2時間・・・それしか離れてないんだよ」
「そうだな・・・こうして電話をすれば・・・大河の声が聞ける」
「・・・」
「・・・」
「・・・なんか、湿っぽくなっちゃったね」
暗くなりそうな空気を振り払うように大河はいつもの明るい口調に直した。
「ああ、それでうまくやっていけそうか?」
気を取り直した様に竜児も聞く。
「大丈夫、安心して」
大河の声色に演技や嘘がなさそうだと感じられ、竜児は胸を撫で下ろした。

「そっちはどう?」
「変ってねえな・・・そのまんまだ」
大河に聞かれて竜児はそう答える。


2−Cの教室に今も残る大河の机。
誰も片付けようとは言わない。
独身も何も言わない。
机の主は不在だが、2−Cがある限り、逢坂大河はまだクラスメートだとみんなが言っている様だった。


それでも授業中、ぽっかりと空いた無人の空間が嫌でも目に付く。
それだけを見ていれば大河は風邪で学校を休んでいるだけで、明日になれば「おはよう」と登校してくるんじゃないかと思わせる。
でも、それは幻想に過ぎないと竜児は授業が始まるたび思い知らされてしまう。
教卓に置かれた黒い背表紙・・・2−Cの出席簿。
逢坂大河の文字の上に引かれた2本線が否応もなく現実を知らせる。
「出席を取る」
順番に呼ばれるクラスメートの名前。
しかし、決して大河の名前が呼ばれることは・・・無い。



それでも大河が居ないと言う生活に少しづつだが竜児は順応していった。
定期的に連絡を取れると言うのはある意味、すごいことだと竜児は思う。
これだけは今の時代に生まれ合わせた幸運に感謝するしかない。
大河と竜児を繋ぐツール、携帯電話。
日頃、何気なく使っていた竜児だが、感謝の意味も込めてぴかぴかに磨きあげてやる。

まるで磨き終わるのを待っていたかの様に電話が大河からの着信を告げる。
電話代の都合もあるから交互に掛けようぜと言う竜児の申し出を大河は断っていた。

「寂しい想いをさせるあんたへのせめてもの罪滅ぼしよ」
電話代くらい私が負担すると言って大河は聞かなかったのだ。

「竜児」
「おう」
スピーカーから聞こえる大河の声に竜児の目元が緩む。
声を聞くたび、どれだけ大河を想っているのか、竜児は心に刻み付けられる。
「今日の晩ご飯、何?」
「いきなり、何だ?」
「聞いてんのよ。答えなさい」
「アジの干物にきんぴらだ」
「何、その手抜き」
「手抜きじゃねえ・・・ヘルシーと言ってくれ」
「私が居たらそんなメニュー、納得しないからね」
「・・・だろうな」
大暴れする大河を想像して竜児は苦笑する。
「ちゃんと作んないと駄目だからね」
「ああ・・・分かってる」
大河に作ってやれないと思うだけで、竜児のやる気は3割カット状態だった。
「やっちゃんに悪いでしょ・・・明日は何?」
「考えてねえ」
「ほんと、しょうもない・・・今決めなさい、竜児」
「・・・じゃあ、おひたしと豆腐」
「何それ、精進料理?」
竜児だって食べるんだから、もっとパワーのあるもの作れと大河は電話口で大声を出す。
「明日は焼肉、いい?」
一方的に高須家の献立を決める大河。
「わかったぜ、大河」
大河の声色に心配のスパイスを感じて竜児は請け負う。
「明日は上等の牛肉を使って、すき焼きだ」
「ずるい・・・私が居た時だってめったにやらなかったのに・・・そっちに食べに行っていい?」
「おう、来れるもんなら、来て見やがれ」
「言ったわね・・・せめて匂いだけ送って」
「出来ねえ相談だな」
そのままぷっと電話口で吹き出す竜児と大河。



「あ、そうそう竜児」
「何だよ?」
「高校、決まったから」
福岡で通う学校が決まったと大河は言う。
「おう、良かったな」
「ん・・・お気楽そうな公立が良かったんだけど」
「違うのか?」
「私立なんだよね・・・ちょっと雰囲気固そうな・・・ママは名門校だって言ってけど」
「・・・共学か?」
「気になる?」
「・・・ああ」
「安心して、女子高だから」
「そっか・・・無茶するなよ」
「大丈夫、ちゃんとやっていけるから」
そう言ったものの、編入試験を受けに行った学校の雰囲気は自由闊達とは言えず、大河がかつて通っていた私立の中等部を連想させ、大河の気を重くさせた。

「面接の時なんて如何にもって感じのおばさんが出て来てね」
大河は可笑しそうに言う。
面接官として出て来たのは鎖付きの銀縁メガネを掛けた教育者然とした中年女性で、思わず大河は噴出しそうになる。
間違っても公立高校にはいないタイプの教師。
「真面目にやったんだろうな?」
「当たり前じゃない」
だからこそ受かってると大河は胸を張る。
模範解答の連発で良家の子女を大河は演じきったのだ。
「もう、完璧」
竜児にも見せたいくらいだったと大河は自画自賛。

「心配してたんだぜ」
「何をよ?」
「だって、おまえ、停学くらってただろ」
「そんなこともあったわね」
まるで大河は意に介していない・・・たまたま転がり込んで来た2週間のバカンスくらいにしか思っていないのだった。
「試験の後でそのこと、ママに言ったら・・・すごく慌ててた」
「そりゃそうだろ」
「うん、もう落ちたもんだと決め付けて、次の学校探し始めてくらいだから・・・だから合格って聞いてびっくりしてた」

実際、なんで受かったのかしらと母親は首を傾げる思いをしていた。
自分の母校だからと言う理由で娘の大河にこの学校を推薦したのだが、いろいろうるさいお嬢様学校だということは卒業生である自分がいちばん知っていた。
実力よ、実力とあっけらかんとする娘の言葉を鵜呑みには出来ないが、いろいろ世の中が変ったのかしらと編入許可書を前にして母親はうなづくしかなかった。



「がんばれよ」
「・・・うん」
竜児は電話口でうなづく大河を想い、大河は鋭すぎる視線の中にある竜児の優しさを思い浮かべ言葉を交わす。

竜児の部屋に置かれた写真立ての中でたたずむ大河の姿。
文化祭で撮られた一葉。
携帯電話を片手に竜児は面白くもなさそうな顔をして写る大河を指先で突付く。
・・・がんばれ、俺もがんばるからさ。

「竜児、そんなことしてるの?」
竜児がたった今していたことを聞き出し、大河が言う。
「べ、べつにいいじゃねえか・・・写真でも見てないとお前を忘れちまいそうで」
「言ってくれれば、写真くらい何枚でも送ってあげたわよ」
「言えるか、そんなこと」
「やせ我慢しちゃって」
「・・・じゃあ、頼む・・・とっびっきりの笑顔でな」
「難しい注文つけないでよ・・・いいわ、出来る限りいい写真送るから、待ってて」





「あん時、数日して送られて来た写真・・・何だよ?俺は楽しみに待ってたんだぞ」
写真を見た時のことを思い出したのか、竜児が憤慨する。
「いい思い出でしょ」
にっこり微笑む大河。
「言っとくけどな、あの写真、まだ持ってるからな」
「ええ〜!やだ、早く捨てなさいよ」
「ふん、いい思い出だろ」
言い返す竜児。

竜児の手元に残る逢坂大河の写真。
笑顔でとの注文に「あっかんべー」で返した大河。
ご丁寧に舌まで出した完璧なあっかんべーだった。



二年生の最後の日、全てのクラスメートが居なくなった夕闇迫る教室で、自分の机と大河の机を丁寧に拭いてやる竜児がいた。
「ピカピカだろ・・・このふたつの机だけ」
次に座る奴はびっくりするだろうな、と思いながら竜児は一年の感謝を込めて磨き上げたのだ。
そのまま教室を出ようとした竜児はふと思い付いて、自分の隣にある机をどかすと、大河の机と入れ替えた。
「机だけでも・・・隣あっていたいじゃねえか」
我ながら馬鹿なことをしてると思わないでもない竜児だが、気持ちは切実なのだ。
最後に教室を出た竜児は廊下にあるロッカーへ歩み寄る。
いちご牛乳をぶちまけたドジな誰かさんのために掃除してやったロッカー。
竜児は金属製の扉を手前に引いた。
空っぽの中身が竜児を出迎える。
既に数日前に竜児が整理しておいたのだ。
パタンと音を立てて扉を閉める竜児。
竜児の目の前に来る漢字が二文字。
竜児はその持ち主を明記するネームタグホルダーから「逢坂」と記された厚紙をゆっくりと抜き取る。
この瞬間、最後まで大橋高校に残っていた大河の痕跡が消えたのだ。



三年生になって間もない頃、掛かって来たいつもの電話の中で大河が言い出した。
「あのマンション・・・引き渡さないと駄目なんだって」
「とうとう来たか」
「うん。前から分かってたことだけどね」
また寂しくなるなと言う竜児に大河はあることを頼む。

「荷物、そのままでしょ」
「ああ、そう言えばな」
「片付けに行かないと・・・」
「こっち来るのか!」
弾む竜児の声。
「・・・行きたいのはやまやまなんだけど」
反対に沈む大河の声。
弟が生まれたばかりでこっちを離れられないと大河は事情を説明する。

「・・・そっか・・・そうだよな」
落胆がありありと出る竜児に大河もテンションが下がる。
「せっかく会えたかもしれないのに・・・ごめんね」
「いや、家のことの方が大事だ・・・そのために大河は帰ったんだからな」
「そう言ってもらえると・・・いくらか気が楽」
「いいさ・・・機会はまたあるだろ」
気を取り直す竜児。
「じゃあ、大河が来れないんじゃ、荷物とかどうすんだ?」
「業者の人を頼むって・・・でも、ほとんど捨てちゃうんだ」
「捨てるって・・・あのバカ高い服とか、マイセン焼きの食器とか、あれもこれもか!」
絶句した後、なんてもったいないと竜児は電話に向かって叫ぶ。
「だって仕方ないじゃない・・・そんなに広い家じゃないし」
洋服を収納できる場所なんて限られたものしかないと大河は今の住宅事情を説明する。
「あんなのみんな持って来たら、服に埋もれて生活しなきゃいけないでしょ」
超高級マンションだからこそあった広大な収納スペース、そんなものはここで望めないと大河は言う。
「ものすごいお気に入りだけは持ってきたけど、運べなかったのとかあるんだ」
それを選り分けて送って欲しいというのが大河の依頼だった。

「引越し業者の人じゃ分かんないでしょ?」
「まあ、そうだな・・・で、何を送ればいいんだ」
大河の説明をふんふんと聞く竜児。
「分かったぜ。間違いなく探し出して、送ってやる」
「ありがとう。助かる・・・あ、それから」
「何だよ?」
「・・・寝室のチェスト、開けないでよ」
「お、おう!」
それは大河の秘密が詰まった男子禁制の花園。
「片付け、やっちゃんに頼んでおくから、竜児は見ないで、いい?」
「ああ、約束する」
大真面目に言い切る竜児に可笑みを感じ、大河は電話口で笑い声を出す。
「・・・まったく、あんたって変なトコがお堅いんだから」
「ほっとけ」
「・・・いいわよ」
「何がいいんだ?」
「鈍いわね・・・ひとつくらい持ってたっていいって言ってんの」
「持ってくって・・・大河のパンツを・・・か?」
「ストレートに言うな!もう」
そんなものどうするんだよと言う竜児に大河はいろいろ使い道があるだろうと言う。

「頭から被ろうが、くんくんしようが竜児のお好きな様に」

俺はそんな変態さんじゃねえと啖呵を切った竜児だが、下着が嫌なら他の好きな物を持って行って構わないと言う大河の申し出を受け入れた。


数日して、竜児はあれ以来、初めて大河のマンションのドアを開いた。
大河が出て行った時と何も変っていない室内・・・それでも時間の経過だけは積もったほこりが教えてくれる。
「よし!」
一瞬、目をランと輝かせた竜児は腕まくりをするとお掃除モードに突入し、恐るべきスピードで部屋中を磨き上げていった。


「荷物、送ったぜ」
竜児は掛かって来た大河からの電話にそう返事をした。
「おつかれさま・・・で、何を持ってたの?」
「ああ、タオルとか食器とかいいやつはもらったぞ、あれを捨てるなんてもったいない」
「・・・そんだけ?」
大河の声に落胆の色が混じる。
「さすがに大河のオススメは貰えねえけど・・・」
言い難そうに竜児が言葉を切る。
「何よ?はっきり言っていいわよ」
パンツを持って行ってもいいと言い切ったくらいだから、何を持って行かれても驚くつもりはない大河。
「制服・・・もらった」
「制服って・・・大橋高校の?」
「ああ・・・あの部屋にあるものでもうお前が本当に必要ないもんだろ?」
確かにそうねと大河は同意した。
「きちんとお前がさ・・・たたんで行ったよな」
それを見たらこのまま処分されるのは忍びなくなったと竜児は告げた。
「・・・・・・」
「何だよ?嫌なのか?」
無言の大河を訝り、竜児は携帯電話のマイクへ声を送る。
「・・・んでも・・・ない」
ややかすれた大河の声がスピーカーから返る。
「・・・大河?もしかして・・・」
「違う・・・泣いてなんかない」
竜児の問いにうっかり本音を漏らしてしまう大河。
「・・・竜児」
「おう」
「ありがと・・・う」
あの制服に詰まった思い出を竜児が拾ってくれたんだと感じた大河。
そんな大河がおずおずと切り出した。

「あのね・・・送って欲しいんだ」

大河がねだった物、それは竜児が身に付けていた何かだった。


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