「お猿さんみたい」
遠慮会釈ない大河の感想に母親は苦笑する。
「あんただってそうだったわよ」
「嘘!」
「嘘じゃないわ・・・大河の方がもっとしわくちゃだったかも」
うふふと笑う母親に大河は顔を少し引きつらせる。

出産と言う大仕事を終えて間もない母親は疲れた顔を見せずに、喜びに浸っていた。
なぜならいっぺんに子供がふたりに増えたからだ。
ひとりは産まれたばかりの赤子。
そしてもうひとりは病室に居る母親を毎日、見舞いに来る娘、大河だった。
我が子でありながら、前夫との結婚生活の破綻が原因で、置き去りにするようにして離れてしまった過去。
かたくなに心を閉ざし、自分が差し出した手を振り払って前夫の下へ残ることを選んだ娘。
そんな大河の態度を仕方ないものと納得し、意識の下へ押しやって過ごして来た日々。
それが、前夫の失踪という形で再び、母親の下へ戻って来たのだ。
それも、昔のようにかたくなな大河ではなく、自分を母親として見てくれる大河として・・・。


「弟・・・かあ」
「ピンと来ない?」
大河は素直に頭を下げた。
実際、17年間ひとりっ子として生きて来た大河にとって弟ってなんだろうと思わざるを得ない。
「・・・もうひとり居れば少しは違ったかも」
つぶやくような母親の台詞に大河が問い返し掛けた時、病室のドアが開いた。

「お、大河も来てたのか」
「・・・お父さん」
声のした方を振り向くとこの春から大河の義理の父親になった男性がにこにこしながら立っていた。
つかつかと歩み寄ると、ベビーベッドに寝ている我が子をのぞき込み、しばらく眺める父親。
やがて、細々とした気遣いを母親と大河に言い残し、慌しく病室を出て行った。

「お父さんって・・・仕事中よね?」
「抜け出してきたんだわ・・・仕方ない人」
そう言いながらも母親は嬉しそうだった。
「そう言えば、お父さんって何してるの?」
「大河にはまだ詳しくは言ってなかったわね・・・ビルを管理する会社をやってるの・・・分かるかしら?」
「何となく」
自信無さ気に答える大河に母親は補足してやる。
建物のオーナーさんに代わっていろいろなメンテナンスをする仕事で、大河も知っているであろういくつかの有名な建物の名を上げ、みんなあの人がやっているんだと説明を加えた。
「へえ・・・すごいんだね」
単純にそう言う大河に母親は苦笑する。
「あの人の持ち物って言うわけじゃないのよ」
「分かってるわよ、それくらい」
信用無いなという顔をして軽く抗議の姿勢を示す大河だが、そんな様子を見て母親は気持ちが和むのを覚える。
なにせ、前夫の仕事内容なんてまるで興味を示さなかった大河なのだから。


「ねえ、大河?」
「何?ママ」
「お母さん居なくて困ってない?」
「全然」
新家族で暮らし始めて間もなく、母親は出産のため入院してしまい、大河と父親はふたりきりなのだ。
まだそんなに慣れていない関係。
いろいろあるだろうと母親は気にしているのだ。
「本当に?」
大河の顔を真正面から見つめながら母親は聞く。
「うん」
表情も変えずに大河は肯定した。
むしろ父親の方が気を遣ってるんじゃないかと大河は思っている。
この前も大河がパジャマ姿で朝食の席に付いていたら、遅れてダイニングへ入って来た父親が、大河の姿を認め急停止した。
すぐに、お、忘れてたとかわざとらしく言いながら引き返して行ったのだ。
避けられてるんじゃないのかと一瞬、悲しくなった大河だがそれがすぐに誤解だったと分かった。
なぜなら朝食後、部屋着に着替えて再度、階下へ降りた大河に父親は普通に接してきたからだ。

「別に変なパジャマ着てたわけじゃないわよ」
「照れたのよ、きっと」
「竜児は平気な顔してた」
「高校生とは違うわよ」
苦笑いする母親。

それにしても・・・と、母親は思う。
大河から聞き出した竜児との関係。
聞けば聞くほど、良く何の間違いも無く、ここまで来れたものだと感心してしまう。
女の子が一人暮らしをしている部屋に、男の子を入れて、しかも朝起こしに来させるなんて普通の常識だったら考えれないことだった。
そしてよくもまあ、こんなわがまま娘に付き合ってくれたものだと、以前と比べて母親は竜児への印象を大きく変えていた。
わずかに言葉を交わしただけの相手だが、大河の心を解きほぐしてくれたのは彼であると考えて間違いないだろう。
だから、将来を誓い合ったと聞いてもさほど驚かずに済んだのだ。
もちろんそんなことを言い出した娘の顔をまじまじと見つめてしまったのは事実だが・・・。

「何時って決めたわけじゃないけど・・・約束はしたわ」
「ふう・・・大概のことじゃお母さん、驚かないけど・・・少しびっくりした」
「そんなに驚くようなこと?」
「当たり前でしょ」
「反対はしないんだ?」
「大河が決めたことでしょ・・・諸手を挙げて賛成とは言いかねるけど、頭ごなしに反対はしないわ」



基本的に認められれたことが嬉しいのか、安堵の表情を浮かべる大河の顔が輝いているのを眩しい気持ちで眺めた母親。
それでも最低限のことは聞いておかねばと遠回しに大河へ探りを入れる。
いくら親子でも聞き難いことだし、大河が大人なら気にすることではないのだが。

何度も言い方を変えた結果、ようやく大河も母親の聞いている意味が理解できたのか、顔を真っ赤にして大きく首を振った。
「そ、そ、そんなこと・・・してないから」
うつむく大河に嘘は無いと見て母親は胸を撫で下ろす。
母親は聞いたのだ・・・約束って、言葉だけ?それとも、それ以上のことしなかった?ね、大丈夫?お母さんみたいになってない?

大河が無分別な行動に出ていなかったことや相手の竜児が十二分に大河を慮っていることが分かり、母親としては安堵の思いと娘の背中を押してやりたい気持ちが一緒になる。

「わかったわ、大河・・・その気持ち、大事にしなさい」
母親がそう言うと大河はこれ以上は無いって言うくらい嬉しそうにうなづいた。
「あ、それから」
急に思いついたように母親が言い出す。
「あの人にはまだ内緒よ」
「どうして?」
「だって、びっくりするでしょ」
母親のこの台詞に大河は困った様な顔で答えた。

「もう、知ってる・・・お父さん」

大河の説明はこうだった。
竜児から私宛に宅配便が届いて、お父さんが受け取ったの。
・・・高須くんて言う子から荷物が来てるよって。
で、高須くんて誰なんだいって聞くから・・・竜児は、その・・・フィアンセだって・・・

「・・・で?」
驚きの余り固まった母親は恐る恐る後を促す。
「・・お父さん・・・めまいみたいな症状して・・・フラフラっていなくなっちゃったの」

この答えに母親は頭を抱えたくなった。
パートナーに世間一般の子と少し違うからと事前にレクチャーしておいたとは言え、これは強烈過ぎただろう。
出来たばかりの娘がフィアンセだなんて言い出して、どう思っただろうかと母親は気がかりになる。

「何か、言ってた?あの人」
「お父さん?」
「そうよ」
「驚いたって」
「それだけ?」
「・・・竜児のこととか少し聞かれた」



フラフラと居なくなってしまった父親はキッチンで水を飲み、気を静めてから大河の前に再び、現れたのだ。
娘の唐突な台詞に動転したものの分別ある大人である父親の立ち直りは早かった。
18にもならない女の子が婚約とか言いだしたことに逆に興味すら覚えてしまった父親。
外へ出ようかと大河を誘い、ファミレスに入った父親は大河がスペシャルパフェとコンビネーションプリンを平らげる間に竜児との出会いから、今に至るまでの経緯を聞き出していた。

「・・・最初は気になるくらいだった・・・でも、竜児と一緒に居るととっても気分良くて・・・安らげたの」
「それで?」
「男の子のこと好きになったことなんて無かったから・・・それがそんな気持ちだったなんて分からなかった・・・だから、みのりんとの橋渡しをしようとして・・・」
「竜児くんが好きだった子だね?」
「うん・・・でも、ひどく心が痛くて・・・私、竜児のことが好きなんだって・・・独り占めしたいって・・・気が付いたんだ」
淡々として語る大河の口調だがその裏に秘められた想いの強さを父親は敏感に感じ取っていた。

「竜児とずっと一緒に居たい・・・でも、逃げてばかりじゃ夢は叶わないって気が付いて・・・」
帰って来たんだと大河はそう言葉を結んだ。
それで父親は大河が東京へ失踪した数日間の詳しい事情を初めて知った。

娘を連れ戻して来ると、眦を決して出掛けて行った母親が意気消沈してひとりで戻って来たあの日。
そして、掛かって来た電話に生気を取り戻し、空港へ駆け出そうとした母親を掴まえて、父親は車を出したのだった。
親子間の確執とばかり思っていたが、そういうこともあったのかと父親は新たな発見をした思いがした。


「竜児が言ったの・・・幸せになるのは俺たちだけじゃない・・・みんなだって・・・それはママも・・・お父さんも含まれていて・・・だから」
瞳の虹彩をきらめかせて夢中で話す大河を父親は優しげな視線で見つめる。
大河の言っていることは大人から見れば幼稚なことかもしれない、それでもうなづいてやりたくなる部分もあると父親は思った。
こんなに夢中になれるのは若さの特権かとうらやむ気持ちが湧く一方で、大河への危惧も抱く。
何とかは盲目って言う言葉があるが・・・相手の竜児君とやらがいつまでこの子を想ってくれるのか・・・気持ちは簡単に移ろうし、とにかく若い時は熱し易く冷め易い。
若さだけで突っ走った恋愛なら時が経てば覚める・・・。
そうなった時、この子が傷つかなければいいが・・・。

しかし、逆に言えば、覚めなければ・・・それは本物だ。
その時は・・・分からんなあと父親は思う。
娘を持った途端に嫁にやる心配をしなければならないとは思いもよらないことだった。
ま、今日明日にもどうとか言う話じゃない・・・しばらく見守ってやるさ。



「ん、大河は本当に好きなんだね、その竜児くんが」
「・・・うん」
はにかむように肯定する大河。
「じゃ、その辺にしておいた方がいいんじゃないかな?」
「え?」
「ブタさんになった姿を見せたくないだろ、大河は?」
大河の前に並ぶ空になった容器の山。
ファミレスのデザートメニューをコンプリートし掛けていた大河。
「あっ」
急に恥ずかしさが込み上げて来て大河はうつむく。
テンションが高くなった大河は話に夢中で食べまくっていたことに気が付いていなかったのだ。
「いや、どこまで食べられるのかとどんどんオーダー出したのはボクだけど、まさか平らげるとは思わなかった」
小柄な体でよく食べる子だとはうすうす感じていたものの、ここまでとはと、父親は娘の知らなかった一面を見つけ嬉しくなる。

ふと、気が付いて父親は尋ねる。
「夕食とか・・・あれで足りてるのかい?」
「・・・も少し・・・食べられる」
消え入りそうな声で大河は言外に不足だと訴えた。
弾ける様に父親は笑い出した。

「いや、ごめん、ごめん」
笑うこと無いでしょと上目遣いに軽くにらむ大河に父親は謝り、付け加えた。

・・・明日から、炊くご飯の量、倍にするよ。





大まかなところを大河から聞きだした母親は小さく吐息をつく。
大河の話を聞く限り、父親が大河に対してネガティブなイメージ持たなかったことがうかがえて母親はやや安心する。
そんな母親を見て大河はさっきの問い掛けた言葉を続けた。
「・・・さっき、もうひとりとかってママ言ってたけど・・・何のこと?」
母親は少し気難しそうな表情を見せると、そのまま大河をじっと見つめた。
「・・・な、何、ママ?」
「そうね・・・大河も今年中には18になるのよね」
「あ、当たり前でしょ」
「もう子供じゃない・・・のよね」
それは大河へと言うより、母親自身へ向けられた言葉だった。
「・・・大河も結婚を考える人が出来た・・・それなら・・・話していいかもしれない」

そうつぶやくと決意を秘めたように母親は言葉を紡ぎ出し始めた。




「お母さんの故郷が福岡だって言うのは知ってるわよね?」
「うん」
「だけど一度も帰省したことがないでしょ」
そう言われて大河は改めて不思議に思った。
・・・ママのママとか・・・居るんだろうか?
大河がまともな判断が出来るような年齢になって間もなく崩壊してしまった逢坂家。
今まで大河はそのことについて不思議に感じることさえなかったのだ。

その母親の実家は旧家とも言うべき家庭で、その先祖をたどれば福岡の地を長く治めた黒田藩の家老の家柄に行き着く。
戦後の農地改革でかなりの土地を手放してしまったとは言え、現在でも十二分に資産家として通る家だった。
したがって家庭環境は厳格で、いわゆる親の引いたレールの上を踏み外すことすら許されない雰囲気を持っていた。
そんなしばられ方に反発した母親は高校を卒業すると反対を押し切り、東京の大学へ進学したのだ。

「嫌だったのよ・・・やりたいことも出来ないなんて」
大河は母親の意外な過去に目を見開いて話しに聞き入っていた。
「幸い、援助してくれる親戚が居て学費とか何とかなったんだけど・・・」
烈火のごとく怒った大河の母親の両親。
しかし、親戚のとりなしもあり、卒業後に家に戻ることを条件に東京への進学を許された。

「約束・・・破ったのよね、お母さん」
自嘲気味に言う母親。
「どうして?」
「大河も分かるでしょ?親にあれこれ言われたくないって」
思わず大河はうなづいていた。
一瞬、コラって言う表情を浮かべる母親。
大河は小さく首をすくめて見せた。

「猛勉強したわ・・・それでいろんな資格を取って・・・ひとりで生きて行こうって」
結果的に福岡へ戻らず、東京に留まることを選択した母親。
給与の良い外資系企業へ就職し、生活基盤を安定させると母親はそのまま自由を謳歌した。
いつか目を覚まして戻って来ると期待していた福岡の両親はついにさじを投げてしまった。

「・・・で、勘当されたわ・・・もう娘でも何でもないって・・・」
それを聞いて大河は憤慨する。
「勝手じゃないの!そんなの・・・」
自分の代わりに腹を立ててくれる大河に母親は笑みを向ける。




「それから何年かして・・・出会ったのが逢坂だったわ」
「パパ?」
母親はうなづいた。
「その時、逢坂は同じ外資系企業でトレーダーをやっていたの」
トレーダーって何?と言う大河の質問に母親は金融取引の仲介をする仕事でとかいつまんで説明したのだが、米国債とかポンドとか先物取引とか大河の聞き慣れれない単語が連発され、大河は半分も理解出来なかった。
「凄腕って評判だったわ、逢坂は」
少し遠い目をしてみせる母親。

「ちょっとしたきっかけがあって付き合い始めたの・・・逢坂と」
やがて起業して会社を持って、日本のリーマンブラザースを目指すと熱っぽく語った逢坂を思い出し、母親は胸が少し熱くなった。
「少なくとも夢があったわ・・・あの頃の逢坂には」
母親がその夢を一緒に叶えたいと願うようになるまでさして時間は要らなかった。

「2年くらいだったかしら・・・交際期間」
「それから結婚したの?ママとパパ」
「そうよ・・・お腹にあなたが出来ちゃったから」
何気ない母親のひと言が大河の後頭部を直撃する。

「そ、そのママって・・・でき、でき・・・ちゃった・・・コン?」
うなづく母親に大河は後ずさる。
「何よ、大河・・・嫌なの?」
意外な出生の秘密・・・と言うのは大げさだが、大河の驚かせるには十分だった。
「嫌じゃないけど・・・その・・・何て言うか・・・」
乙女特有の潔癖さみたいなものが引っかかり、大河は言いよどむ。

「そんな奇麗事、お母さんが言ってたら、あなた、ここに居ないわよ」
苦笑と共にズバリ、本質を指摘され大河は押し黙る。
確かに母親の言うとおりだった。




結婚後、しばらくは順調だった。
大河が生まれ、母親は退職し、大河の父親、逢坂陸郎は起業に成功した。
企業規模が小さい内は二人三脚で進んだ会社経営・・・思えばこの頃がいちばん、幸せだった頃かもしれないと母親は思った。

順風満帆に人生航海は進まない。
逢坂陸郎の会社に経営危機が訪れる。
行き詰った資金繰り・・・万策尽きた時、母親は恥を忍んで実家に援助を求めたのだ。

返って来たのは手厳しい拒絶だった。
何処の馬の骨とも知れない男と結婚した娘など知らないと・・・。
その時、同行していた逢坂陸郎の見せた表情を母親は一生忘れないだろうと思った。

この辺りからおかしくなり始めた母親と逢坂陸郎の関係。
狂った様に事業へ熱中して行く逢坂陸郎を不安げに母親は見守るしかなかった。
傾きかけた会社を建て直し、従来の数倍規模へ拡大させた手腕は、事業に携わったことのある母親をして文句の付けようがなかったと今でも思っている。

しかし、母親は密かに願っていたのだった。
大企業になんかしなくていい、小さなままの企業でいい、大河を入れて温かい家庭が続くなら・・・。

その願いは叶えられることは無かった。
企業規模が拡大するに従って、離れる夫婦間の距離。

やがて、決定的な瞬間が訪れた。
第2子を身ごもったことを母親は知ったのだ。
その事実を告げた逢坂陸郎が返した言葉。

・・・ひとりで十分だよ。
その瞬間、繋いでいたか細い糸が切れたことを母親は感じ取った。


「もうひとりって・・・そういう意味?」
母親は静かにうなづいた。
散々、反発してきた母親がたどって来たこれまでに大河は圧倒されたと言っても良い。

「それからのことは大河も物心が付いていたから覚えてるでしょう?」
・・・今のあの人と出会って・・・気持ちが逢坂から離れた。
・・・でも、それはお互い様で・・・ひびの入った関係は二度と直ることは無かった。

すっかり黙ってしまった大河に母親は優しく声を掛ける。
「だけど、お母さん、後悔なんてしてないわ・・・逢坂と知り合ったお陰で、大河・・・あなたを授かったんだもの」
「・・・ママ」
今までにあれこれ投げつけた母親への心無い台詞。
そのひとつひとつが今、大河の心へ逆流し、突き刺さる。

ごめんなさいと子供の頃に戻ったみたいに大河は母親のひざ上に顔を埋めて泣いた。
そんな大河を愛しむ様に母親は長く伸びた大河の髪をそっと撫でてやった。


建物の外からは相変わらず喧騒が聞こえてくる。
30分とか言っていた時間は少し長引きそうな気配だった。

「できちゃった婚って聞いた時はびっくりしたわ」
母親から意外な告白を聞かされた時を思い出したのか、大河は苦笑いを浮かべ、すぐ真顔になる。
「ねえ、竜児?」
「何だよ?」
「竜児はどう思う?できちゃった婚」
「別にいいんじゃねえか・・・それは愛し合った証なんだし・・・」
「ふうん・・・なら安心」
竜児の答えを聞き、大河は意味ありげに笑みを漏らす。
「安心って・・・第一、できちゃった婚は大河のお袋さんだろ・・・俺たちには・・・」
関係ないと続けようとして竜児の言葉が止まる。

「・・・ま・さ・か・・・大河?」
じっと大河を見つめる竜児。

「・・・式が終わってから言おうと思ってたんだけど、竜児の台詞を聞いて安心した」
無表情を装う大河。
「・・・ってことは!」
「うん・・・3ヶ月だって」
にぱっと花が咲くような笑みを見せ、大河は竜児を見つめ返す。
「た、たいが〜!!」
感激の余り、大河を胴上げしようする竜児。
「ちょ、ちょっと竜児」
大河の声に慌てて竜児は胴上げを中止する。
「そ、そうだった・・・もうお前ひとりの体じゃねえ・・・大事にしねえと」
そのまま竜児は愛しそうに大河のお腹に耳を押し当てる。
「何してるの?竜児」
「いや、何か聞こえるかなって・・・赤ちゃんの声とか」
「ぷっ・・・バカね」
大河は噴き出した。
「まだ無理よ」
「そっか」
竜児も照れ笑いする。


「でも、どうして式の後でだったんだ?」
竜児のこの問いに大河は大真面目にこう言ったのだ。

「だって、竜児って変なトコがお固いでしょ・・・だから、出来ちゃった婚だと嫌かなって思って・・・式の後なら出来ちゃう前婚になるもん」


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