「さて、大学に入って初めての連休です」
「おう」
「どっかいかないの?」
「おう、どうにも連休に出かける習慣ってのがなくてな」
「私にだってそんな習慣ないよ。だけど、このままでいいの?」
「なんだよ、深刻な顔して」
「だって、大学生よ?」
「だから?」
「大学生って人生で一番遊べる時期よ?」
「コレ書いてるヤツが高卒だからって妙な偏見を……」
「それは置いといて、どっか行くわよ!」
「おう、オーケーオーケー。わかったからその木刀はしまってくれ」


「……なぁ、大河?」
「何よ」
「目的地はここか?」
「そうよ。低予算でいて、連休でも昼間はあまり混んでない!完璧なチョイスよ!」
「いや、まぁ、そうかもしれねぇけど、ラブホじゃねぇか……」
「変なこと考えてんじゃないでしょうね?」
「だって、ラブホだろ? することなんて決まってるじゃねぇか」
「はぁ……。だから竜児はエロ犬なのよ」
「おう、懐かしい呼び名だな」
「喜ぶトコじゃないよGIY!」
「おう……」
「イマドキのラブホは暇つぶしもいっぱいあるのよ」
「へぇ。しかし、なんでそんな事に詳しいんだお前」
「……ばかちーに教えてもらった」
「……それもなんだかなぁ」
「せっかくここまで来たことだし、竜児も興味あるでしょ?」
「まぁ……な」
「じゃ、突撃ー!」
「こらこら、いきなりドアをぶち壊しそうな勢いで開けるんじゃねえよ」
「うるさいわね、細かいのよ竜児は」
「おう!キレイじゃねえか、埃一つ落ちてねえぞ、すげぇな」
「あらそう?竜児のお眼鏡にかなうなんて、結構ハイレベルなホテルだったかしら?」
「だな……って、うおう!?何だこのカプセルは……日焼けマシンか?」
「ビックリだわね、通路を曲がったらこのマシンとお風呂しかないなんて、っていうかベッドはどこよ?」
「おい、大河。これ……すげえぞ。見てみろよ、ここ」
「ん?岩……盤……浴びる……?」
「岩盤浴だ、ガンバンヨクな。遠赤外線で身体がポカポカ温まるって奴だな」
「へーすごいわね、さすがの私もビックリだわ。あってもサウナくらいかと思ってたのに」
「だな。つーか、こっちの風呂がまたでかい。何畳あるんだ?俺のボロアパート2部屋分くらいあるぞ、ここ」
「ねぇ竜児!アレ何?あのマット。プールで浮かばせて遊ぶあの大きなマット!」
「あ、あれは……まさか……」
「何よ。顔が赤いわよ、竜児?何かエロい事考えてるでしょ?」
「当たり前だ、ここはラブホじゃねえか……しかし、俺の想像が確かなら、アレがどこかに……」
「竜児っ!!!」
「なっ、何だ!?」
「ペペがあるわよ!!!」
「ペペ言うなよ!」
「いいじゃない。細かい事言うんじゃないわよ!最早ぐろーばるすたんだーどなんだから!」
「大河、おまえ……その発音をまず何とかしような……」
「うっさいわね。でも……ははーん。竜児の桃色脳細胞があのマットを見て何を考えたのか分かったわ」
「あぁ……そうかよ。おまえも最近察しが良くなって俺は助かるぞ」
「このエロ犬!あんな無邪気な遊具で。っていうか、遊具とペペでくんずほぐれつなんて……そんな……そんなの……」
「うわああああ!やめやめ!妄想やめい!まずは周辺調査からだろ、こういう時は」
「周辺て……」
「まずベッドが無い。トイレも無い。風呂と岩盤浴マシンしかないのはどう考えても変だろ?」
「そうね」
「なんだ、風呂だけのホテルなのか?洗面台もないって化粧とかどうすんだ?」
「あら?……ねぇ竜児。あの先って何かしら?」
「ん?あぁ、あの間接照明っぽいところか……どれどれ?」
「あ!階段がある!」
「おう!?まさか……まさか二階建てなのか!?」
「あんた、今時二階建てって……メゾネットって言いなさいよ」
「……すごいな。いくらなんでも贅沢すぎんだろ。いくらだったんだ、この部屋?」
「ぴゅーひゅるーるーらーらー」
「おい、大河。低予算とか言ってて実は高いんだろ、この部屋?」
「ひゅー すさー ふひゅるー」
「いや、吹けてな(ry」
「さぁ!二階へゴーよ竜児!着いてきんしゃい!」
「あっ!おい、待てよ大河!」
「このドアの向こうが……どーん!!!」
「うおう!ひろ!広い!!!」
「……あのベッド。竜児の家のリビングよりでっかいわよ、確実に」
「そんなもんと比べるんじゃねえよ」
「……この薄型テレビ。竜児の家の三倍くらいあるわよ」
「悪かったな。どうせプラズマでもねえし、寝転がったら色が変わっちまうよ」
「……洗面台の鏡。竜児の家の台所の窓全部よりおっきい……」
「うるせえんだよ!いちいち比べるんじゃねえよ!」
「あらやだ。庶民のひがみだわ」
「ぐっ……」
「……大きなベッド。こんなに大きかったら逆に寂しくなるわね」
「そんなもんか?」
「竜児の布団ならずっとくっついていられるじゃない?」
「お、おう」
「つまり、私たちにはこんなホテルは必要ないって事よ」
「……おまえが行こうって言い出したんだろうが」
「そう……そうね。でも今日ので分かったからもういいわ」
「ったく……変な奴だな」
「ねぇ竜児?」
「おう?」
「映画も見れるんだって。スイーツがタダで食べ放題なんだって。すごいわね」
「……だな」
「それじゃ、どうしよっか?」
「ん」
「岩盤浴かー。お風呂かー。ぺぺかー。映画とスイーツ!」
「ペペ言うなって」
「はい、どれにするの?」
「しょうがねえな。たくさんありすぎて決めらんねえよ」
「ふふ……あんたらしいわね」
「待て待て。よし今考えたぞ」
「うん。どうする?」
「大河。お風呂。ペペ。大河。お風呂。岩盤浴。映画。大河。大河。大河だ」
「ちょっと……意味が分からないんだけど!」
「ん?そうか?」
「大河って何よ?それに最後の大河って3回言ってなかった?」
「おう」
「……ま……まさか」
「だってフリータイムだろ?夜までいられるんだろ?」
「そ……それはそう……だけど……」
「暇つぶしがいっぱいあって良かったな、大河」
「暇つぶしって言うか……そのほとんどが私なわけで……それって……」
「さ、覚悟しようか?」
「え……え、え、え?」
「今日は大家さんの事だって部屋の後片付けの事だって気にしなくていいんだ」
「りゅ……竜児……あ、あんた顔が怖いわよ……」
「普段は色々と気を使ってるから大変なんだよ……今日は思う存分……ふ……ふふふふ……」
「ひゃ、ひゃ―――――っ!!!」

ギシギシアンアン! ギシギシアンアン!




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