暴れる大河。それを制止する竜児。その周囲から避難するクラスメイト。
 そこまでは、よくある光景だったのだけれど。
「放せ竜児っ!あのアホロン毛、絶対に殺すっ!」
「そんな物騒なこと言ってる奴を放すわけねえだろが!とにかく落ち着けって!」
「うるさい邪魔すんなこの馬鹿犬!」
 どん!と、突き飛ばされてバランスを崩す竜児。
 倒れた先には机があって。ぶつかった瞬間鈍い音がして。

 休みなのか外出中なのか、保健室に養護教諭は不在だった。
 意識の無い竜児をとりあえずベッドに寝かせ、大河と実乃梨はその傍らに。
「大河、そろそろ昼休み終わるから戻らないと……」
 実乃梨の言葉に、しかし大河はかぶりを振る。
「……わかった。先生には私が言っとくから」

 静かな保健室にたった一人、座ったまま身じろぎもせずに竜児を見つめ続けて。
 膝の上の拳に力がこもる。
「……竜児、早く起きなさいよ。みのりんも、北村君も、ロン毛虫もアホ眼鏡もばかちーだって心配してるんだから」
 視界がじわりと歪む。
「やっちゃんのご飯どうするのよ。掃除も、洗濯も、ブサ鳥の世話も」
 ぎゅっと目を閉じれば、ぽたりと落ちる一滴。
「それに、もしあんたが……竜児がこのまま起きなかったら……私は……私は……」
「おう」
 え?と顔を上げれば、まだぼんやりとした表情で、だがしっかりと身を起こした竜児。
「りゅ、りゅりゅ竜児、あんたいつから起きて……」
「いや、今さっきだけどな」
「……聞いてた?」
「おう、なんとなく……頭ぼーっとしててよくわからなかったけど。
 ……泣いてるのか?」
「あ、ああ……あんたが悪い!」
「おうっ!?」
「あのぐらいで気を失ったりして!しかもなかなか目を覚まさないし!情けないのよこのグズ犬!」
「大河、お前なあ……」
「それから……その……」
 大河はふいと視線を逸らして。
「……ごめんなさい」
「おう」
 竜児は微笑み、大河の頭を優しく撫でる。



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