「・・・・・・。」
さっきから聞こえる鼾は、午前5時に帰宅した竜児のもの。
大河は、ワイドショーの通販コーナーをボーっとしながら見ていた。
ゴールデンウィーク4日目。駄犬は相変わらずの仕事中毒だ。
洗濯は終わった。竜児を起こさないように掃除機はかけなかったが、掃除もした。
竜児が目を覚ましたら、いつでも朝ご飯を食べさせられるように、準備も完了。
しかし、駄犬は相変わらず夢の中・・・・。
『6時間は寝たから起こしても大丈夫』と囁く悪い娘の大河
『疲れてるんだから目が覚めるまで寝かしとかなきゃダメ』と言う良い子の大河。
大河の心の中で、2人の大河がせめぎあっている。

「う〜ん・・・。」
駄犬がベッドの上で寝返りをうつ。天気が良くて室温が上がっているからか、掛け
布団を蹴っ飛ばして、Tシャツとパンツの隙間からお腹が見えている。
普段、竜児の寝相は悪くないから、布団を蹴っ飛ばしている姿は貴重だ。
四つん這いになってベッドに近づく・・。膝立ちになって竜児の寝顔を覗き込む。
目を閉じている時の竜児は、意外にハンサムだ。
「へへへへ、竜児の寝顔。」
思わず頬肉をつんつんしてしまう。反応なし。
身を乗り出して、今度は鼻の頭をツンツンしてみる。一瞬、顔をしかめたが、再び
安らかな寝顔。
「ねえ駄犬。お昼ですよ〜。そろそろ起きようよ〜。」
お腹をツンツン。反応なし。
「駄犬。餌の時間だぞ〜。餌食べたら散歩に連れて行ってやるぞ〜。」
おでこをツンツン。反応なし。
「そう。飼い主を無視するんだ〜。」
部屋を見回して得物を探す。片隅に小さな洗濯ばさみを見つけた。

洗濯ばさみを、竜児の鼻の頭にゆっくりと近づける。あと10センチ、3センチ
そして静かに、竜児の鼻を挟んだ。1秒・2秒・3秒・7秒・8秒
「だ〜!」
突然、竜児が飛び起きる。状況がつかめなくて軽くパニック。鼻につけられた洗濯
ばさみに気がついて、それを外して大河に投げつけた。
「大河! お前は俺を殺す気か!」
投げつけられた洗濯ばさみは、大河の鼻頭にヒット。結構なダメージ。
竜虎は、お互いに鼻を押さえている。
「あんたね〜、何もこんな物投げつけなくても良いじゃない!」
「お前こそ、子供じゃねえんだから、こんな悪戯をすんじゃねえ!」
寝起きを襲われた竜は、普段と違って余裕がない。
「あ〜ら遺憾だわ。駄犬が惰眠を貪っているから、飼い主様が散歩に連れて行って
 あげようと、起こしてあげたのに。まさに飼い犬に手を噛まれるだわ。」
「うっせい、単にお前が暇だっただけだろうが!」
「頭に来た! 今日という今日は我慢出来ない!」
手乗りタイガーと化した虎は、ベッドの上に横たわる竜児に襲いかかった。
「やめろ! 埃が舞うだろう!」
一気に守勢に回った竜。
ケンカが、1週間ぶりのギシアンに変わるまで、30分しか掛かりませんでした。



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