「そうだ大河、お前人のノートに落書きするのやめろよな」
「落書きとはなによ、せっかくの愛のメッセージを」
「愛よりも食い気の方が多いじゃねえか。八割がた弁当や晩飯のリクエストで」
「その奥に秘められた深い愛情に気づけないなんて……竜児もまだまだってことね」
「奥深過ぎて誰にもわからねえよ。というかだな、この間提出用のノートにも書いただろ。気づかずにそのまま出しちまったじゃねえか」
「あらま、それは大変」
「人事みたいに言ってるんじゃねえ。英語だったからまだよかったようなものの……『学生としてもうちょっとわきまえましょうね』とか言われちまったんだぞ」
「はん、独身の僻みなんて気にしなきゃいいのよ」
 そんな話をしながらゆっくり歩く二人が曲がり角を越えれば、そこは大河がこの四月から暮らしている家の前で。
「それじゃ竜児、また明日ね」
「おう、おやすみ大河」
 言って竜児は大河に軽くキスを。
「……ねえ竜児」
「おう?」
「なんかこう……もの足りないんだけど」
「おう」
 苦笑しながら、さっきより少し長く唇を重ねる。
「ねえ、もう一度」
 体を抱き寄せながら、感触を、想いを、確かめ合うように。
「もう一度……」

「ただいまー」
「おかえりなさい大河。ちょっといい?」
「ん?ママ、何?」
「竜児君と仲が良いのは結構な事だけど、毎回毎回玄関前で五分以上ってのはさすがにどうかと思うのよね」
「ま、ママ、なな、なんでそれを……?」
「……あなた、うちの前に防犯カメラがあるの忘れてるでしょ」



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