不安そうな表情の大河の前で、竜児が最後の一口を食べ終える。
「……どう?」
「55点」
 竜児の言葉に、はぁと溜息をつく大河。
「やっぱ、そんなもんか……」
「いやいや、最初は野菜の皮もまともに剥けなかったのが、たった三ヶ月でここまで上達したのは大したものだと思うぞ」
「無理に褒めなくてもいいわよ」
「無理じゃねえって。まだ少々粗いけど、下拵えも一応一通りは出来るようになったしさ」
「でも、まだまだ竜児のご飯には遠く及ばないし……」
「そりゃ、そんな簡単に追い着かれたら俺の方の立場がねえよ」
「はあ……こんなんで私、竜児のお嫁さんになるまでにちゃんと間に合うのかしら」
「焦るなって、まだ時間はたっぷりあるんだから」
「うん……」
「それに、今から音を上げてたらこの先が大変だぞ。俺が教えるにしても、経験上なんとなく身につけたから上手く説明出来ないことだってあるしな」
「竜児……あんたは私を励ましたいの?落ち込ませたいの?」
「おう、すまねえ。……そうだ、ともかく初めて50点越えたんだし、お祝いというかご褒美というかでだな」
「ご馳走してくれるっていうなら今はやめてよね。私にとってはこの先のハードルの高さを思い知らされることになるんだから」
「お、おう……それじゃ……何がいい?」
「う〜ん…………そうね…………一緒に写真撮ってくれない?」
「は?そんなもん、別にいつでも」
「普通の写真じゃなくてね、ドレスにタキシードで、その、結婚写真みたいなやつ」
「……え?」
「ほら、さっき時間があるって言ったけど、私達が実際に結婚できるまで早くてもあと4〜5年ぐらいはかかるわけじゃない」
「おう」
「だから、その予行演習というか、先に気分だけでもというか……」
「え〜っと、ちょっと待てよ。衣装は当然レンタルとしても、ウェディングドレスとなると多分それなりに高いよな……」
「……駄目?」
「いや、白いドレスにヴェールだけはなんとか手作りするか……いっそのこと大河の手持ちの服を改造してそれっぽく仕立て上げるとか……そういうのでもいいか?」
「! それじゃ……」
「真田写真館のおっちゃんなら毘沙門天国の常連だし、話と条件次第でだいぶまけてもらえると思う」
「本当に、いいのね?」
「おう、ちょっと手間と時間はかかるかもしれねえけど、絶対になんとかしてみせる」
「……竜児、大好き!」



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