「ゲームなんか、自分の部屋でやれよ。」
「うっさい。黙れ・・・。」
ゲームの画面に夢中になっている大河は、こちらの方を見ないまま竜児を罵倒する。
時間は午後10時50分。普段なら、大河が自分の部屋に引き上げる時間だ。
しかし、今日は新しく発売されたばかりのロールプレイングゲームが手に入ったとかで
泰子が出勤した途端にゲーム機を引っ張り出してきて、そのまま既に4時間ちかくゲー
ムに熱中しているのだ。
竜児の方は、夕飯の片付けを済まし、明日の朝食と弁当用の下ごしらえを終えて、独身
の授業のレポートも書き終え、あまつさえ予習・復習も終わらせた。
あとは、居間を我が物顔で占拠している子虎を追い返すだけなのだが・・・・。
もともとロールプレイングなんてジャンルのゲームは、大河の性格には合わないはずだ。特にゲームスタート時の、HPもMPも低くて、俗に言う雑魚キャラを片付けるのも一仕事
なんて段階では、大河のストレスは溜まる一方で、さっきから舌打ちが聞こえる。
こんな時に、無理矢理に自宅に帰そうとすれば、痛い目に遭わされるのは目に見えてる。仕方なく竜児は、普段なら大河を帰してから入る風呂に入り、風呂から上がると、自室
の布団の中で本を読んでいた。

部屋のステレオのデジタル時計が午後11時30分を示す。
「大河、続きは明日にして帰れよ。」
「セーブポイントに行くまでセーブ出来ないんだからもう少し。」
子虎は暢気だ。
「じゃあ、セーブポイントに行けよ。」
「言われなくても向かっているわよ。合い鍵で鍵かけて帰るから、先に寝れば?」
大河の物言いに、なんだか微妙に腹が立った。
「ああそうかよ。じゃあ俺は寝るから、ちゃんと電気消して、鍵かけて帰れよ。あと遅
くまでゲームやっていたからって、明日の朝、起きる時に暴れるなよ!」
そう言って竜児は襖を閉めて電気を消して布団に入った。
襖の向こうからは、大河の激しい舌打ちの音が聞こえた。

どれくらいたったのかは知らないが、襖が開く音がした。
「よいしょっと」
何かを引きずるような畳が擦れる音。声の主は泰子だ。
意識はあるのだが、身体の方はまったく反応してくれない。
「ごめんね竜ちゃん。少し詰めてね。」
仕事終わりのいつもの少し酔ったような緊張感の無い声。
泰子の手が布団の隙間に入ってきて、竜児の寝る場所を少しずらした。
「よいしょっと」
今度は、やけに暖かくて、柔らかい物体が布団の中に入れられた。
小学生の頃、一人で寝ていると偶に泰子が入ってきたから、今日も酔っぱらって俺の布
団に潜り込んできたのかと竜児は思った。
普段なら、自分の部屋で寝るように言うのだが、竜児も寝ぼけている状態だ。
たまにはいいかとやけに寛大な気分になって、そのまま再び深い眠りについてしまった。
翌朝。
竜児が目を覚ますと、目の前には大河の幸せそうな寝顔があった。
「おうっ!」
声にならない叫びを上げて布団を抜け出す。
「泰子っ!」
泰子の部屋に飛び込んで、熟睡状態の泰子をたたき起こす。
「おまえ、何で大河を俺の布団に入れたんだ。」
事の重大さに、どうしても詰問口調になってしまう。なにしろ相手は虎だ。自分が竜児
の布団で一緒に寝ていたなんて事がばれたら、殺されても文句は言えない。
「え〜、だって大河ちゃん、居間で寝ちゃってたから、あのままじゃ風邪引いちゃうと
思ったから・・・。」
「だったら、お前が一緒に寝ればいいだろ。」
「だって、大河ちゃんは竜ちゃんのお嫁さんになる子だもん。」
「お前は何てこと言うんだ!」
「何を朝から騒いでるのよ、大家に怒られるよ・・・・・」
振り返ると、寝ぼけた子虎がそこにいた。
竜児が、三分の二殺しに逢うまで、あと120秒。


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