「……か……かっ……あ……」
 期待に満ちた表情の大河の目前で竜児は数度口を開き、しかし言葉を上手く紡げずに視線を逸らす。
「……竜児」
 たちまちぶうと頬をふくらませて不機嫌顔になる大河。
「たった一言のセリフが何で言えないのよ?」
「す、すまねえ……だけど、改めて面と向かってってのは、やっぱりなんかこう……照れるというか恥ずかしいというか……」
「このヘタレ」
「返す言葉もねえ……」
「はい、もう一度頑張って!」
「か……かわいいぜ、大河」
「……う〜ん……なんか違う」
「……そう言われてもなあ……」


「ってことが昨日あってな」
「ほ〜……それで今朝の大河はちょいとご機嫌斜めなんだ」
 通学途中、並んで歩く竜児と実乃梨。そしてその数歩前を行く大河。
「そういうのはさ、自然に出てくるもんであって……無理に言わせたりするのはやっぱり違うんじゃねえか……と、俺は思うんだけどな」
「う〜ん、高須くんの言うこともわからなくはないけどね。女の子は時々わかりやすい形で確かめたくなるもんなのさ」
「おう、そうなのか……」
「念のために確認するけどさ……高須くんは大河のことを可愛いと思って無いわけじゃないんだよね?」
「おう、あたりまえだ」
「具体的にはどのへんが?」
「……今ここでそれを言えってのか?」
「まあまあ、練習だと思って」
「おう……まあ、ぱっと見全体的に可愛いというか、いわゆる美少女だってのは言うまでも無いよな」
「そうだね〜」
「……やっぱり、一番可愛いのは笑顔かな。嬉しい時とか、飯食ってる時とか、見てるこっちも幸せな気分になるし」
「それだけ?他には無い?」
「そうだな、時々しか見られないんだけど、照れてる時なんかもすっげぇ可愛い。ちょっと慌てて顔真っ赤にしちまってさ」
「ほうほう」
「あと、意外だけど怒ってる顔もいいんだよな……怖くて可愛いってのも変かもしれねえけど」
「いや、なんかわかる気がする……」
「それから、やっぱり普段表情がくるくる変わる所もかな。拗ねてるかと思えば急にニコニコしだすし、そうかと思えば怒り出すし」
「……結局、大河の全部がいいわけなんだね」
「いや、そうでもねえ。泣いてる顔だけは、ちょっとな……」
「可愛くない?」
「というより、見てて辛くなるんだよ。だから出来るだけ泣かせたくねえんだ。
 ……本当は二度と泣かせないとか言えればいいんだろうけど、まだまだ俺じゃそこまではな……」
「ふ〜ん……だってさー!大河、聞こえたー?」
「え?」
 見ればいつのまにやら実乃梨の手には通話状態の携帯電話が。
「おい……櫛枝?」
「いや〜、実は昨日の夜に大河から相談されててさ〜」
 振り返る大河は耳まで真っ赤で、手にした携帯からイヤホンが伸びていて。
「ろ……録音したわ。でもって、お墓まで持って行くから」



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