「高須君のケータイですよね? 私、逢坂さんと同じゼミの中川っていいます。逢坂さん、酔っ払っちゃって……」
珍しく大河が女子大のゼミ仲間と飲みに行ったので、近々行われる学会用の論文に手をつけようとした矢先、竜児のケータイに連絡が入る。
「あ、どうも、はじめまして。わざわざすみません」
「で、もうすぐ大橋駅に着くと思うので、迎えにきてくれませんか?」

10分後、駅の改札に着いた竜児は、両脇を二人の女友達に支えられたまま真っ赤な顔で寝息を立てる大河を見てため息をつく。
「どうも、高須です。あーあー大河、ベロンベロンじゃないか」
「私が中川です。なんか大河ちゃんの話してたのとイメージ違う」
「弁当男子の高須君だー! 大河ちゃんうらやましー!」
「ほら、大河、よっこらせっと。すみませんね迷惑かけて。ほらヨダレ垂れてる。拭かないと」

座り込んで大河を抱きかかえつつ介抱する竜児を興味深げに見つめつつ、キャッキャと笑う二人。
酒の入った女の子のノリと勢いにはシラフではちょっと太刀打ち出来そうにない。
「いやー迷惑っていうか、私たちも高須君に会いたかったんだよねー」
「なんせ大河ちゃんご自慢の彼氏だもんねー」
「……えっと、こいつは普段学校で俺のことをなんて話しているんだろ?」
「そりゃもうノロケまくり。自分からはあんまり話さないのに、ちょっと話でも振ろうもんなら竜児が竜児がってウルサイくらいなんだから」
「愛されてるよねー。お弁当も作ってあげてるんでしょ? あれすっごい美味しそう」
「まぁ最近は大河が自分で作ることもあるけど」
「で、その時は高須君が大河ちゃんのお弁当持っていくんでしょ! ラブラブじゃん」
「なんたって半同棲してるんだもんねー」
「ず、ずいぶん色々話をしてるんだな……」
大学では工学部に進学した竜児。女子の少ない環境に慣らされた身には久しぶりに聞く女の子同士の恋話は新鮮だった。

「でも大河ちゃんエラいんだよ。人数合わせで合コン誘っても『竜児がいるから絶対行かない』って、すっごい律儀なの」
「ちっちゃくて可愛いから男友達の間では人気なんだけどねー」
「だから大河ちゃんがそこまでメロメロになってる高須君ってどんな人なのか、気になってたんだよね」
「ヤ○ザみたいとか犬とかたまにヒドイこと言ってるけど、あれ絶対愛情の裏返しだよね、さすがツンデレキャラ」
「天下のT大生にして家事全般が大得意。なんて素敵な旦那様!」
「ねえ今度大学の友達紹介してよ〜。コンパしようよ」
「あーわかったわかった。また今度紹介するよ」
「じゃあヨロシクね〜。あ、そうそう。大河ちゃんカルアミルク一杯でデキあがっちゃったみたいだよ」
「コイツは酒はダメなんだ……多分背伸びしたかったんだろうな」
「きゃー保護者発言! あ、そろそろ終電だから私たちはこれで」
「ああ、今日はワザワザありがとう」

ホームで手を振る二人に別れを告げ、大河をおぶって駅の階段を降りる竜児。
「さて、タクシーは、と」
「……このまま帰ろ」
「なんだお前起きてたのか。いつからだ」
「……ナイショ」
「まぁなんだ、酒弱いのに背伸びすんなよ。あとヨダレ垂らすなよ」
ウルサイウルサイあんたは保護者かとつぶやきつつ竜児の背中に軽く頭突きを繰り返す大河。
それが寝息に変わったのを確かめて、竜児はゆっくり歩き出す。
明日の弁当はちょっぴり豪華にしてやるか。まんざらでもない竜児であった。



作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system