「ねぇ、竜児」
「おう、ててて。なんだ」
「やっぱり体痛い?」
「痛ぇよ」

結婚まであと1週間。昨日は事前に借りた小さな部屋への引っ越しだった。来週から義母になる女性による、部屋面積に関する的確かつ空気を読まないコメント攻撃も堪えたが、もちろん体のダメージはそれが原因じゃない。
荷物の搬入は引っ越し代を節約するために全部竜児が行ったのだ。高校時代のクラスメイトの春田に頼んで軽トラを借り、二人の荷物を運び込み、家具の配置を行い、荷物をほどき、予定していた場所に収納する。これを全部竜児がやった。

大河は何をしていたかというと、手伝いはした。最初の十分だけ。本人はやる気満々だったが、こけるこける。さすがに結婚を前にしてタンスの下敷きになったフィアンセは見たくないので、結局竜児がやめさせて、一人でやった。で本日日曜日にいたる。
すでに書類上は二人が入居しているが、昨日からは竜児の一人住まい。来週大河を迎えることになる。

「花婿がそんなことじゃこまるわね」
「面目ねぇ」

目を線にして笑う大河に竜児は苦笑い。昨日見たくせに、また見たいなどと言い出して遊びに来た大河は、どれどれとキッチンを探検したあと、お茶を入れて竜児と談笑中である。

「ね、竜児。マッサージしてあげようか?」
「おう、いいのか?」

てへっ、と顔を赤くする大河に、竜児もうれしそうな笑顔。

「そりゃぁだって、来週から大切な、だ、だ、だ、旦那様だし。健康管理はつ、つ、つ、妻の仕事だもん」

大河は目も合わせられないほど照れて、もじもじそわそわと体をくねらせ挙動不審気味に室内を見回している。

「そっか、じゃ、ありがたくお願いするぜ」

そういうと、立ち上がった竜児はベッドにうつぶせになる。えへへ、とおかしそうにベッドによじ登って来た大河は、うつぶせの竜児に馬乗り。

「どの辺が痛い?」
「背中のあたりだな」
「この辺」
「おう、おおおお、効くな」
「効く?」
「おう、気持ちいい」

掌に体重をゆっくりかけてぐっと大河が押し込むたびに、竜児がくぐもった声を上げる。

「竜児、パパみたいな声だしてる」
「お父さんにもしてるのか」
「たまにね」
「そうかってててててて!何してるやめろやめろ!」
「痛い?」
「痛いってレベルじゃねーぞ。何したんだよ」
「親指で押しただけなんだけど」
「お前馬鹿力なんだから気をつけろよ。今の絶対痣になってるぞ」
「なによ。あ、そうだ。ねぇ、竜児」

ぷっと頬をふくらませた大河だが、突然、竜児の見えないところで何かいいことがひらめいたような笑顔。

「おう。なんだ」
「痣で背中にオリオン座描いていいでしょ」
「馬鹿やめろ!てててて!!」

(おしまい)




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