「ん〜……」
 目覚めた大河は反り返るように伸びをして、まだ少しぼ〜っとしたまま布団の中を手探りして。
「……あれ?」
 寝る前には確かにあったはずのものが、そこに無い。
 布団をめくってみても、ベッドの横を見ても、枕の下にも。
 部屋をぐるりと見まわすが、竜児によってきちんと整頓された部屋にはモノが行方不明になるような余地は無く。
「う〜ん……?」
 首をひねりながら裸足でぺたぺたとリビングへ行けば、竜児がアイランドキッチンで何やら調理中。
「おう、起きたか大河」
「あれ?今日朝ご飯こっち?」
「おう、泰子が帰ってきたのが明け方だったみたいでな、起こしたくねえから。たまにはいいだろ?」
「メニューは?」
「トースト、サラダ、ベーコンエッグだ。バターとジャム、どっちがいい?」
「バター。あと飲み物は牛乳で」
「おう、了解した。もうちょっとでできるから、顔洗ってこいよ」
「ん。ところで竜児」
「おう?」
「あれが無いんだけど」
「おうっ!?」
 竜児はなぜか頓狂な声をあげ、頬を赤らめて。
「そ、それを何で俺に言うんだ?」
「あんた以外の誰に言うってのよ」
「お、おう……そこまで信頼されてるってのはまあ、嬉しいが……そういうことは泰子にでも聞いてみねえと……」
「は? なんでやっちゃんなのよ」
「おう、そうだな、それだと学校から帰ってきてからになっちまうか……それなら、やっぱり病院に行くのがいいんじゃねえかな」
「……竜児?」
「保険証はあるよな?一緒について行ってやりたいけど、場所が場所だけにあらぬ誤解をされそうだしなあ……途中まででもいいか?近くで待ってて、終わったら電話くれれば迎えに行くから」
「ちょっとあんた、何の話をしてるのよ!」
「いや、だって……無いんだろ?」
「そうよ。だけどそれが何でやっちゃんとか病院とかわけわかんない話になるのよ」
「えっと、その……無いってのはいつからだ?」
「今朝、今さっきよ。昨日の夜寝る時はあったんだから、そうなるとあんた以外に考えられないじゃない」
「……すまねえ、ちょっと確認したいんだが、何が無いんだ?」
「ぬいぐるみ!どこにやったか聞いてるのよ!」
「……ああ、それなら涎がべったりになってたから洗濯機の中で……ってなんだそうか、ぬいぐるみのことか、はは、よかった」
「何だと思ったのよ」
「あ、いや、大した事じゃねえよ、うん」
「あんたの態度からはとてもそうは思えないんだけど」
「あー、その、説明するのちょっと面倒だし、時間無くなっちまうから。まあ、気にするなって」
「さっき大した事じゃないって言ったじゃない。いいから話しなさいよ」
「それよりさ、ほら顔洗って飯食って、急がないと櫛枝待たせちまう」
「は・な・し・な・さ・い」


「みのりん、おはよう」
「お〜う、おっはようだぜ大河ー!高須くんもってうぇぇぇい!?」
「お、おう、おはよう櫛枝」
「どうしたのさ、その目の回り……うっわー、すげえ痣、痛そー」
「いやその、ちょっとぶつけちまってな……」
「自業自得よ」
「あれ?大河もちょっと不機嫌?何で?」



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