「おう、糸くずが」
 そう言って玄関で屈み込んだ竜児が、ふと動きを止める。
「竜児、どうしたの?」
「いや、大河の靴がな」
「やだ、あんたまさか靴フェチ?臭い嗅ぐぐらいなら許してあげるけど、舐めたりするのは勘弁してよね」
「そうじゃねえよ!並んでるの改めて見るとちっちゃいなーって思っただけだよ!」
「あら、そう?」
 とてとてと竜児の横にやってくる大河。
「確かに比べると竜児の靴ってでっかいわね。『馬鹿の大足』っていうんだっけ?」
「知ってるか?その後『間抜けの小足』って続くんだぞ」
「ねえ竜児、手出して」
「おう、スルーかよ……ほれ」
 差し出された竜児の掌に、大河は自分のそれを合わせる。
「手も大きいわねー。これでチマチマした細かい作業が得意ってのは何なのかしら」
「そりゃお前、技術と経験ってやつだ」
「ふーん……そうだ竜児、ちょっとこっち来て」
「おう?」
「ここ座って」
「おう」
 促されるままに竜児が卓袱台の横にあぐらをかくと、大河はその組んだ脚の上にぽすんと尻を落として。
「おうっ!?」
「おー、思った通りちょうどいいサイズ」
 大河が竜児の体に背を預けると、その旋毛がちょうど竜児の目の前に。
「おい、大河?」
「前々から座椅子があったらいいと思ってたのよね。は〜らくちんらくちん」
「お前なあ……人を家具扱いかよ」
「何よ、恋人の役に立ってるってのに何か不満?」
「不満っていうかな……そうだ大河、ちょっといいか?」
「ん?」
 座ったまま振り返り見上げる大河に、竜児は覆い被さるようにキス。
「おう、こりゃ確かにちょうどいいな」
「……ばか」
 真っ赤になった大河は、しかしそのまま竜児の胸板にもたれかかって。



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