『俺は竜、お前は虎』

そう言って自分の横に立った男は、最後まで自分の傍らに立ち続けた。それまで誰にも見せなかった涙や傷を見ても、その男は笑うでもなく、目をそらすでもなく、はじめは暖かな笑みで包み、最後にはきつく両の腕で抱きしめ、そして絶対離さないといってくれた。

その腕の中に、ずっと探していた安寧が見つかったのだ。あとはただ、その男がこの世にいてくれたことに感謝し、奇跡のような巡り会いに感謝しながら、そっと微笑みを浮かべてその腕にわが身をゆだねていればいいと思った。
なんの疑問も抱かず、なんの不平も言わず、単に目を閉じて幸せに身を任せていればいい。

男の愛には一片の疑いも抱いていない。この男は自分を見捨てない。

しかし。
それでも。
だとしても。

懸念が疑念に変わる前に、不安が不信に変わる前に、妬みが怒りに変わる前に、悪しき芽は摘んでおかなければならない。

今、虎は再び自らの脚で立ちあがる。隠していた爪を大地につきたて、血に濡れた牙をむき出しにし、炎のように赤い口を開き、全身の筋肉を震わせ、竜に向かって咆哮する。

「竜児、だめよ」
「おう、なんだよ。藪から棒に」
「それはだめ。絶対許さない」
「だからなんだって」
「知ってるんだから。今見てたでしょ。浮気は許さないわよ」
「浮気ってなんだよ!」
「うるさいっ!さっさと歩きなさい!」
「何なんだよお前はよう!」








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(お・し・ま・い)



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