「…どうしたんだ、大河。この花火の山は!」
「買って来たに決まってるでしょ?」

当然と言わんばかりに言い捨てて、大河は両手いっぱいに抱えた花火を竜児に預け、
勝手知ったるとばかりに高須家のバケツを持ち出す。

「お、おい…今からやるのか?」
「当たり前じゃない。公園行くわよ。」
「今時公園で花火なんかやってて怒られねぇかな…?」
「相変わらず細かいわねぇ。いいから早く!」
「わかったわかった…ちょっと待てって。」

やれやれ、と溜息を付きながらも大量の花火を抱えて大河の後を追う。

周囲の民家から漏れる光と街灯の明かりだけが頼りの薄暗い公園。
バケツに水を張り、さっそく花火を取り出すと、いきなり火柱の上がるタイプの大物を取り出す。

「りゅーじ!これこれっ!火着けて!!」
「そういう大物は最後にだな…ああ、わかったよ。離れてろよ!」

着火すると竜児もすぐに距離をとり、大河と並んでそれを見上げる。
その高さは2〜3mにも達した。周りの薄暗さも手伝い、光の柱は幻想的な彩を魅せる。

「うわぁ…凄い。」
「ああ、凄ぇな。」

少しずつ地上に近づき消えるまで、しばし感嘆した。
しかし、「ハイテンション」タイガーの気勢はこれ位で止まらない。

「次、これ!今度は私が火着けるね!」
「え?それも結構大きいやつだぞ。やめとけ、俺が着けてやるから。」
「む…まぁいいわ。しっかり働きなさい!」
「はいはい。」

次々と大量の花火を消化していく。
いい加減苦情が来る前に止めたいと思う竜児だが、あまりに楽しそうな大河の顔を見るとそれも言い出しづらくなる。


結局バケツいっぱい買い込んだ花火の残骸で埋め尽くし、手元に残るは線香花火だけ。
どちらからともなく並んで座り、火を着けた。

花火の光で、大河の横顔はほんのりと紅く照り出されていた。
横目でちらりとそれを覗き見ると、大河の唇が薄く薄く開いた。

「…今年は、竜児の隣で見たかったの。」
「え?」

大河はそれだけ言うと、後は押し黙ったままだった。



去年の夏、亜美の別荘で見上げた花火を思い。
徐々に弱々しくなる線香花火の光に、少しでも長くと祈りながら。


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