「ごちそうさま、美味しかったー!」
「おう、そいつはよかった。お前がいない間にレパートリー増やしたからな、今度まとめて作ってやるよ」
「んふふ〜」
「おう? どうしたんだよ大河、ニヤニヤしちまって。そんなに新作料理が楽しみか?」
「馬鹿、違うわよこの鈍感犬。竜児のご飯食べて、やっと『あの頃』を取り戻したんだなぁ……って実感してたんじゃないの」
「お、おう、そうか、すまねえ。……っとそうだ、取り戻すって言えば……大河、ちょっとこっちこい」
「ん?」
 手招かれるまま竜児の部屋に入った大河が見たのは、その一角に積まれたダンボールの山。
「……何これ?」
「何って、お前の私物だ。服に食器に教科書ノートエトセトラ、あと学校のロッカーに置きっぱなしだったやつ。さすがに家具や大型家電は無理だったけどな」
「え?なに、まさかわざわざこっち持ってきて取っておいたわけ?」
「おう。そのまま放置して業者に処分されちまうのはMOTTAINAIじゃねえか」
「は〜……あんたのその貧乏人根性には呆れるわね……」
「気配りとエコ精神と言え」
「はいはい。でも、ま、ありがと。……ん?服ってことは、ひょっとして下着も?」
「おう、そりゃ当然」
「それじゃ竜児、あんたまさか、私のぱ、ぱん……」
「い、いや、そういうのは泰子にやってもらったから」
「あ、そうなんだ、よかった……」
「で、こいつをどうする?」
「そうね……ノートとかそのへんは今日持って帰る。タオル類で未開封のやつは竜児にあげる」
「え?いいのかよ?」
「うん、どうせ使わないもの。食器で気に入ったのあればそれもあげるわ。残りはおいおい持って帰るとして……問題は服よね」
「おう?服がどうかしたのか?」
「新しい家もそれなりに広いんだけどね……さすがに前と同じ量入るだけの収納は無いのよ、私の部屋だけじゃ」
「おう……それならお気に入りのやつだけ残して、あとはリサイクルショップにでも持って行くのがいいんじゃねえかな。靴やバッグも」
「えー?」
「何だよ、不満そうだな」
「だって、自分の着てた服が見ず知らずの誰かの物になるって何か嫌じゃない?」
「そうか?」
「脂ぎったオヤジとかが、『どうせなら洗濯前のやつを下さい』なんて言ったりして……うわキモっ!」
「大河……それはなんか違う店だ」
「あら、そう? あー、でも竜児なら私の古着でハァハァしてても許せるかも。なんだったら一通り着て匂いつけてあげようか?」
「しねえよ!そんな変態じゃねえよ! まったくお前は…………
 ま、時間はあるんだし、慌ててどうにかする必要もねえか。と、あとこいつな」
 言って竜児が手にしたのは、ベッドの横に立てかけてあった木刀と、枕元に置いてあった小さな虎のぬいぐるみ。
「あ、それ……」
「スペース的にこいつらだけ箱に入らなくてさ、特にぬいぐるみは隙間に無理矢理押し込むのもなんかしのびなかったから」
 大河は受け取ったそれらをじっと見つめて。
「で、竜児はコレで私を思い出してはハァハァ……」
「しねえっての!いい加減その発想から離れろ!」
 竜児の叫びはスルーして、大河はぬいぐるみに頬をすりすり。
「あ〜……やっぱ気持ちいい、癒される〜……」
 腹にもふもふ、耳をはむはむ、さらには口元にちゅっと。
「おうっ!?」
「竜児、どうかした?」
「い、いや……何でもねえ」
「そう?なんか顔赤いけど?」


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