どおぉんっ!
「おうっ!?」「ひぁっ!?」
 閃光、轟音、そして暗闇。
「なっ、ななな、何!?」
「停電だな……今の雷、近かったからなあ」
「ちょっと、どうすんのよ竜児!」
「俺に言われても……電力会社の頑張りに期待するしかねえよ。
 ところでだな、大河」
「何よ?」
「ちょっとくっつきすぎじゃねえか?」
 言われて気づけば、大河は竜児にしっかりと抱き付いていて。
「……竜児」
「おう?」
 大河はぽすんと、竜児の胸板に額を当てて。
「びっくりしたんだから仕方ないでしょーがっ!」
 ぎりぎりぎりぎり。
「ぎ、ギブギブ!ベア、ハッグは、やめろって!折れる、折れるっ!」

 五分後。
 響く雨音と遠雷。部屋を照らすのは蝋燭の淡い光。
「直らないわねえ……」
「おう、そうだな……溶けると嫌だから冷凍庫のアイス食べちまうか」
「わーい♪」

 十分後。
「あ」
「大河、どうした?」
「ケータイのバッテリー切れちゃった」
「充電忘れてたな、ドジめ」
「しかたないわね……竜児の貸して」
「いいけど、俺のやつはゲームとか入れてねえぞ」
「ち、使えない奴」
「なんでそこまで言われなきゃいけねえんだ……」

 二十分後。
「竜児ー、退屈ー」
「奇遇だな、俺もだ。この暗さじゃ本読んだりとかもできねえしなあ……」
「私、帰ってパソコンでもしてようかしら。ノートだからバッテリーで動くし」
「それはいいが……停電中に自動ドアとかオートロックとかは動くもんなのか?」
「あ……」

 三十分後。
「……ねえ竜児」
「おう?」
「なんかさ……こうしてると、世界中で二人だけが取り残されたような……そんな気がしてこない?」
「……おう、そうだな」
「もし……もしよ……本当にそうなったら……私、竜児とだったら……」
 とその時、数回の明滅の後光を取り戻す蛍光灯。
「おう、やっと復旧したな。で、俺とだったら何だって?」
「べ、別に大した事じゃないわよ」
「なんだよ、気になるじゃねえか」
「だから、その……あんたとだったら、私はきっと楽できるでしょうねって、それだけ!」
「……お前は俺をどれだけこき使う気だよ」
「いいでしょ、あんたは私の犬なんだから」



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