「竜児ー」
「悪い、今ちょっと手が離せねえ」
「ふーん?」
 台所で振り返りもしない竜児に歩み寄りその手元を覗き込むと、鍋の中で茶色い液体がふつふつと。
「これ、焦げてるんじゃないの?」
「カラメルってのは砂糖を焦がして作るんだ」
 言いながら竜児は、それを傍らの金属のカップに少量ずつ注ぐ。
「へー……で、何作ってるの?」
「見てわからねえか?プリンだ」
「ああ、なるほど……そうだ竜児、せっかくだからみのりんがチャレンジしてたバケツプリン作って!」
「……いや、作れねえよ、それは」
「えー、なんで?」
「櫛枝は市販のプリンの素を使ったんだと思うが、あれはゼラチンで固める代物だからな……バケツサイズともなると自重を支えきれないはずだ。
 それ以前に冷蔵庫に入らねえだろう。櫛枝もそれできちんと固められなかったんだろうし」
「むー、そうなんだ」
「ちゃんとしたやつ……卵液を蒸して固めるなら強度は足りるかもしれねえけど、やっぱりバケツが丸ごと入るような蒸し器は業務用でもねえと。
 それに中まで均一に固めるためには弱火でよっぽど時間かけねえといけないだろうし」
「ちぇ、つまんないの」
「あー……バケツは無理でも、丼ぐらいならなんとかなるかもしれねえ」
「本当!? 作って作って!」
「いいけど、まずは普通の作ってからな。あと何しろ初めてだからな、失敗しても文句言うなよ」
「言わない言わない。わ〜い、楽しみ〜♪」



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