かちゃり、と小さな音がした。
「ん?」
 料理の手を止めてそちらを見れば、静かに開いていく外への扉。
「……」
 なんとなくこれからの予想をしつつ、待つこと数秒……すると案の定、ひょっこりと顔を覗かせたのは大河。
「……ちっ」
 そして開口一番の舌打ち&しかめ面。
「おいコラ、妙に早く来たと思ったらいきなりその態度は何だ」
「だって、竜児が起きてるんだもの」
「俺が起きてたらまずいのかよ。そういやなんか忍びこもうとしてたな」
「せっかく頑張って早く来たのに」
「たしかに大河にしちゃ早いとは思うが……俺は基本このぐらいには起きてるぞ?」
「……私が起こしたかったのよ」
「……は?」
「だから……私が竜児の部屋に入ると、あんたはまだ布団にくるまってるわけよ。で、私が『ちょっと、そろそろ起きなさいよ』とか揺すっても『う〜ん、あと五分……』とか言って。それで私は『いいかげんにしなさい!』って布団を剥いで……」
「さて、大河の分もアジ焼かねえとな。食うだろ?」
「うわ淡々とスルー!?」


「で、今回は何の影響だ?」
「……昨日みのりんちで、ばかちーとも色々と……」
「……なるほど」
 泰子を仕事に送り出して、卓袱台を挟んで向かい合う二人。
「だって、近所に住む幼馴染の定番イベントだって話じゃない?」
「そりゃまあ近所だが、幼馴染じゃねえだろ。去年それ以上に濃い生活してたのは確かだけど。
 ……ああ、そういや起こす役割は俺の方だったな、ずっと」
「う〜……」
 むくれる大河に、竜児ははぁ、と溜息一つ。
「つまり、俺を起こすってシチュエーションが体験できれば満足なんだな?」
「え?」
「昨日の夜寝るのが遅くてな。ちょっと仮眠するから、そうだな、一時間……いや、三十分ぐらいしたら起こしてくれよ」


「竜児ー……」
 囁くような声と共に部屋に入ってくる気配。
(早っ!早いぞ大河!)
 測ったわけではないが、おそらくまだ十分程度しか経っていないだろう。
 だが、今『起き』たら全てが台無しになってしまう。竜児はじっと目を閉じて、規則正しい『寝息』を繰り返して。
 気配はそろそろと近づいてきて、つんつんと頬をつつかれる。くすぐったいがここは我慢。
「竜児ー」
 小さな声と軽く揺すられる感触。
「……ん〜……」
 小さく唸ってみる。自然に、眠たそうに聞こえただろうか?
「竜児、起きて」
 大きく体が揺すられる。ここがポイントだろう。
「わりぃ大河、もうちょっとだけ……」
「もう…い、いいかげんに起きなさいよ!」
「おうっ!?」
 がばっと布団が剥ぎ取られて、予想はしていても思わず声が出る。
「お前なあ……」
 しぶしぶといった風に身を起こし、これでミッション終了と思いきや、大河はなぜか布団を手に眉根を寄せていて。
「……何か問題があったか?」
「……おっきくなってない」
「は?」
「だから、ほら、布団剥いだらテント状態で、悲鳴きゃーっ、ビンタばちーんってのがお約束で……」
「……あのなあ、それは男の朝の生理現象なんだよ。この程度の仮眠じゃ……」
「やりなおし。次はおっきくしててね」
「できるかっ!?」
「えー、いいじゃないそれぐらい」
「痛い思いするのがわかってる上にそんな恥ずかしいことできねえっての!」
「直接見られるわけでもないんだし」
「そういう問題じゃねえ!」
「むー、竜児ってばわがままなんだから」
「どっちがだよ!?」



作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system