「あ……ねえ竜児、あれ見て」
「おう?」
 大河が指差す先を見やれば、枝先に開いた一輪の花。
「おう、桜か……もう三月だもんな」
「学校生活もあと少しなのよね……流石に感慨深いものがあるわー」
「だな。色々あったよな……いいこともそうじゃないことも」
「そうね……こうやって竜児と並んで歩ける日なんて二度と来ないと思ったこともあったけど」
「おいおい、聞捨てならねえな」
「し、仕方ないじゃない。あの頃は、本当に……」
「おう、すまねえ。大河にそんな辛い思いをさせたのは俺だもんな……」
「ま、過ぎたことよ。それに、辛かった事も全部ひっくるめてこそ今がある……でしょ?」
「おう、そうだな」
「いい思い出だって多いしね……っと、そうだ」
「大河、どうした?」
「ん、なんでもない」
「何だよ、気になるじゃねえか」
「それより竜児、首の所なんかついてる」
「おう?どこだ?」
「とってあげるから、ちょっとしゃがんで」
「おう」
 言われるままに身を屈める竜児。大河はその首筋に両手をかけて、抱き寄せるように唇を重ねる。
「!」
 たっぷり数秒後、身を離した大河は赤らめた頬に悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「……た、大河……」
「んふふ、一度やってみたかったのよねー、帰り道での不意打ちキスって」
「お前、こんな道端で、いきなり……」
「あ〜ら、『道端で、いきなり』人のファーストキスを奪ってくれたのは誰だったかしらねぇ?」
「……っ、そ、それは……」
「これはそのお・か・え・し♪」



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