「む〜……」
 なにやら唸りながら、高須竜河の視線は上へ下へといったりきたり。
「竜河……あんた、さっきから一体何なのよ?」
 目の前で、クッキーを手に尋ねてくるのは母親の高須大河。
 そして、手元のアルバムの中で竜河の学校の制服に身を包んでいるのも同じ人物。
「……ねえ、お母さん」
「何?」
「何で高校生の頃と体型殆ど変わってないわけ?」
 ぴしり、と大河の指先でクッキーにひびが入る。
「……悪かったわねえ、並んで歩けば妹と間違われる程背が低くて」
「……いや、そうじゃなくて」
 ぱきり、とクッキーが砕け、散った破片はテーブルの上に。
「そりゃあんたは人並みにあるものねえ……やっちゃんの遺伝子を考えれば将来もっと育つ可能性だって……」
「そっちでもなくて!」
「じゃあ何よ?」
「ほら、友達のお母さんとかはもっとその、恰幅がいいというか……」
「……ああ。私、昔からあんまり太らないのよねー」
「それだけじゃ説明つかないでしょ? ご飯はお兄ちゃんと同じぐらい食べてて、その上しょっちゅうお菓子つまんでるのに」
「そういわれてもねえ……ま、あえて言うなら日々の運動かしらね」
「でもお母さん、基本ずっと家にいるじゃない。出かけるのって買い物ぐらいでしょ?」
「あんたにはまだわからないかもねー。主婦ってのは意外に体動かすものなのよ」
「へー……そうなんだ」

 高須竜河は気づかなかった。
 話しながら大河が視線を向けていた場所が夫婦の寝室の方であったことを。


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