大河が闇雲に飛び込んだ電車は、全然違う方向行きで、しかも急行で。
 このドジあんたも止めなかったでしょそんなヒマなかったじゃねえか慌ててたんだから仕方ないでしょ仕方ないで済むかうるさいこの馬鹿犬等々ひとしきり罵り合った後、今は並んで座りつつ、その視線は互いに逸らされていて。
「大河」
「何よ?」
「……後悔してるか?」
「してない」
 即座の返事を聞きつつ、竜児は窓の外に流れる見知らぬ景色を眺める。
 二人で共に生きていくためにはこの方法しかなかった。
 いや、本当はもっと違う方法もあったのだろう。もっと大人な、他人に迷惑をかけない方法が。
 あったけれど、子供で未熟な自分達には選べなかった。思いつくことさえ出来なかった。
 その結果として今や、何処とも知れぬ場所へと向かう電車の中。
 と突然、竜児の手を包む暖かい感触。
「竜児」
「おう?」
「竜児は後悔……してるの?」
「してねえ」
 竜児もまた即座に応え、強く大河の手を握り返す。
 そうだ、間違えたのなら、戻ってやり直せばいい。
 わからないなら、学んで考えればいい。
 無くしたなら、探して取り戻せばいい。
 迷惑をかけたなら、謝って償えばいい。
 時間はある。未来も、希望だっていくらでも。
 何より、傍らを見ればいつだって愛しい人が居るのだから。




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