「それじゃ、すまねえけど行ってくる」
「ん、気をつけてね」
「おう」
「あんまり飲み過ぎるんじゃないわよ」
「わかってるって」
 外に出て、竜児は深く溜息をつく。
 なぜなら、これからしようとしているのは大河への裏切りととられても仕方ない行為だから。
「……だけどこれは、大河のためでもあるんだ……」


「高須、頼みがあるんだが」
「おう、何だ?」
「合コンのメンバーが一人急用で足りなくなっちまってさ、その代りに……」
「断わる」
「友達だろ〜? そんなつれない事言うなよ〜」
「お前なあ……俺に婚約者がいるのは知ってるだろうが。それに自慢じゃねえが、俺の目つきは間違い無く女の子達引かせちまうぞ」
「だからいいんじゃないか。女の子を落とす心配も落とされる心配も無い、まさに頭数合わせとしては最適な……」
「帰る」
「まてまてまてまて!もう他にアテがないんだよ!だから頼むって!」
「大体なあ、会費だって要るんだろ? どう考えても俺にメリットねえじゃねえか」
「ふむ……なあ高須、俺の実家が松阪で畜産農家をしてるのは知っているな?」
「おう」
「A5級を300gでどうだ?」
「……500、いや、600gだ」
「……足元見るなあ……」
「大河とだとそれぐらいは普通に食うんだよ」


 かくして待ち合わせ場所には、期待に満ちた男が二人と明らかに気乗りしてない男が一人。
「はあ……」
「おい高っちゃんよ〜、いつまでも暗い顔してるんじゃねえよ〜」
「うるせえ、ほっとけ」
「そんなんじゃこれからエスコートする女の子達にも失礼ってもんだぜ〜?」
「おう……そういや何も聞いてねえけど、相手はどんな子達なんだ?」
「うちの大学の文系の子だよ。向こうも一人キャンセル出て、別の友達連れてくるってさっきメールが来たけど」
「なんだよ、お互い一人ずつキャンセルなら無理に俺が来る必要無かったじゃねえか」
「そう言うなって。っと来た来た、お〜い!」
 振られた手に反応してこちらに向かってくる三人の女性。その最後尾を見た竜児の表情が凍りつく。
「……竜児、あんた友達と飲みに行くんじゃなかったの?何でこんなとこに居るのよ?」
「た、大河……お前こそ、どうして……」
「私はタダでご飯が食べられるとだけ聞いたんだけど、この状況からするとどうやらちょっと違うみたいねえ?」
 大河の顔に浮かぶのは凄絶な笑み。
 それはあたかも獲物を前にした虎の如し。
「ま、待て大河、話せばわかる」
「問・答・無・用じゃあ〜っ!」



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