昼休み。失恋大明神の声が今日も高らかにスピーカーから響いている。
北村が昼の放送担当でいない日は大河・竜児・実乃梨の3人で昼を取っていた。
「みのり〜ん、このミートボールとその竜田揚げ交換して?」
「おおう、大河のお頼みなら喜んで・・・そりゃ、大河!あ〜んだ!」
「あ〜ん♪」
「うむ、愛い奴め♪」
「あれ?おいしいけど、この竜田揚げさっぱりしてるね?」
「おお、さすが大河。よくぞ気付いた!このダイエット戦士櫛枝はその竜田揚げにも一工夫してるのだよ。」
「ふ〜ん。」
相変わらずの仲の良さの二人。何となく所在ない思いがしながら、しかしその微笑ましい光景に思わず竜児の口元が緩む。
大河がまたクラスにいる、その光景に。
「ん、何だね高須君。ジェラシー?ジェラシ〜なのかっ?それとも…『俺もやってみたい』光線発動中なのかなぁ?」
「いや…別に。」
視線を感じたのか、実乃梨はニンマリとしながらそんな事を言ってきた。
思わず、苦笑してそれを否定する。
「…まあ、竜児がどうしてもと言うのなら、やぶさかではないわ。」
「いい、いい!そんな高いハードルを俺に要求するなっ。」
「さあ、アスパラベーコンでも豚の角煮でもきなさいっ。」
「肉限定かよ…。」
「普段の高須君の大河甘やかしっぷりの方がよっぽど恥ずかしいと思うんだけどなぁ。」
「えっ…そ、そんな事ないだろ?」
「ある。」
実乃梨、断言。本当に気付いていなかったのか、竜児はしきりにそんなバカな…とか言っているが。
「やっぱり愛の成せるワザかねぇ、大河クン?」
「みのりん、おやじクサイよ?」
「なんとっ!?ふっ、それでは若い者の邪魔をしないように、私はそのおこぼれのミートボールでも頂きますか…んぐんぐ。」
「正確には『ミート』じゃなくて魚だけどな。」
「え、そうなの?騙された!」
「何でだよ!お前はいつも『肉・肉』言うからカロリー過剰と栄養が偏らないようにだな…。」
「何かそれ、私がバカみたいじゃない?」
ふと気が付くと実乃梨の動きが止まっている。いや、箸を持つ手がわなわなと小刻みに震えていた。
大河も気が付いたのか、頭に『?』を浮かべながら竜児と視線を交わした。
「どうかしたの、みのりん?」
「どうかしたか、櫛枝?」
「な、何と…このダイエット戦士が薄い味付けと豆腐・こんにゃくのコラボレートで日々耐え忍んでいるのに…。
こ、このジューシーで濃厚な味付けでなおかつカロリーと栄養にまで気を配っているとは……!!」
「み、みのりん??」
突然『グルリッ!』と大河の方に凄い勢いで向き直る。思わず大河もたじろいだ。
「大河、高須君嫁にくれっ!!」
「な、なななななななななななななななな…!!だ、駄目っ!竜児はっ、その…!」
「じゃ、高須君のお弁当だけでもっ!!」
「弁当作るくらい、別に良いけ「いくらみのりんでも駄目ッ!!竜児も、お弁当も、私のーーーーーーーーーーっ!!」ど」
真っ赤になって否定する大河の大声に、当然クラス中の注目も注がれる。
「おぅ…。」
「いやいや…これはこれは、つい我を忘れて失礼をしたでゲス。」
どこから持ち出したのか扇子で自分の額をペチンと叩き、実乃梨は提案を却下されたにも関わらず満足気ににやついていた。
それはもう、満足気に。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「痛っ、お、俺を蹴るな!!痛ぇ!」
「うるさい黙れ喋るな文句言うな黙って蹴られろっ!!」
「無茶言うな!!」

校内放送を終えて戻ってきた北村の「相変わらず仲が良いな!」と亜美の「はいはい、ご馳走様」というお言葉と、
クラス中の生温かい衆目に晒され、大河の蹴りはより一層鋭さを増す、そんな昼下がりの日常風景。



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