何処とも知れぬ場所を、高須竜児は歩く。
 広がる草原、吹き抜ける乾いた風。
「おう、サバンナか……さては夢だな、こりゃ」
 なぜか見たことがある気がする風景の中、その足取りは迷うことなく。
 やがて行く手に表れたのは、大きなテーブルとその端の椅子の上にうずくまって静かに泣いている、
「……大河」
 最初から、なんとなくそんな気がしていたのだ。
 竜児は膝を抱えた大河にそっと歩み寄り、その頭にぽんと手を乗せる。え?と顔を上げた大河の瞳が驚きに見開かれる。
「りゅ、竜児!? あんたどうして……」
「言ったはずだぞ、いつも傍に居るって」
「で、でも……」
「まあ、細かい事は気にするな。どうせ夢なんだから」
「……夢?」
「おう、だから何でもアリだぞ。例えば……」
 言いながら竜児はご飯に卵、ベーコン玉ねぎカブの茎と取り出して、手早くフライパンを振り始める。
 そして真っ白なテーブルクロスの上に湯気を立てて鎮座まします『あの日の』チャーハン。
「ほれ、食え」
「うん……いただきます」
 差し出されたスプーンを受け取り、大河は最初おずおずと、そしてすぐにいつものペースでチャーハンを口に運び始める。

「で、どうして泣いてたんだ?」
 竜児の言葉に動きを止め、なぜか少し顔を赤らめる大河。
「べ、別に大した事じゃないわよ」
「大した事なくて泣くかよ。遠慮してねえで言ってみろって」
 竜児の眼差しに大河は視線を逸らし、更に頬を染めて。
「……かったのよ」
「おう?」
「寂しかったの!竜児に会えないのが!」
「……毎日メールしてるじゃねえか。電話だって時々は……」
「それじゃ足りないんだもん。もっと声聞きたいし、直接姿見たいし、触りたいし……竜児は違うの?」
「そりゃ俺だって、できるもんなら……だけど」
「わかってるわよ、今はそういう時期じゃないってことぐらい。だけどやっぱり時々、どうしても……」
 言う大河は次第に俯き、瞳には再び涙が滲む。竜児はその頬にそっと手を添えて。
 柔らかな唇を上に向かせ、そこに自分の唇を触れさせる。
「!」
 絶句して、だが見る見る紅潮して行く大河。
 竜児もまた自分の頬が熱くなるのを感じる。
「……その、夢とはいえせっかくこうやって会えたわけだし、いや、夢だからこそ、朝まで……目が覚めるまでは『恋人同士』しててもいいんじゃねえかな」
「竜児……」
「正直に言うと、俺も時々すげえ寂しくてさ……だから、次に会えるまでそんなこと思わずにすむぐらいに……」


 薄明かりの中、竜児は布団で半身を起こして。
「……夢だからって、俺はなんつー恥ずかしいコトを……」
 多少おぼろげながらも残る記憶に、頭を抱えて悶えることしきり。
「欲求不満なのか?……このこと大河には言えねえな……」
 と、その時響くはメールの着信音。
「ん?」
 開けばそこには。
『今、竜児の出てくる夢見てた』
「……まさか!?」



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