「おはよー、竜児!」
 日曜日、いつものようにドアを開ける大河。が、いつもならばすぐに返ってくる竜児の声が聞こえない。
「ん?」
 見やれば、卓袱台に座ったまま背を向けている竜児。
 居眠りでもしているのかとそろそろと近づいてみれば、その前にはなぜか大河が昨日忘れて帰ったファッション誌。
「……生まれたままのお前が……って、それじゃ変態みたいか……」
 そして、なにやらぶつぶつと独り言を。
「……竜児!」
「おうっ!?」
 至近距離からかけられた声に、跳び上がって驚く竜児。
「『おう』じゃないわよ、まったく。人が来たのにも気づかないで何やってんの?」
「そ、それは……」
 竜児は一瞬視線を逸らし、ぎゅっと拳を握りこんで、大河を真っ直ぐに見つめ直して。
「大河……俺はお前が好きだ」
「え?えええ!?」
 突然かつ直接的な台詞に、たちまち真っ赤になって絶句する大河。
「それは、大河の容姿も込みで好きなわけでさ。いや、もちろん見た目だけで好きになったわけでも、外見が違ったら好きにならなかったってわけでもねえんだけど」
 が、妙に回りくどくなる言葉に茹で上がりかけた大河の頭の温度が下がっていく。
「……竜児、あんたは何が言いたいのよ?」
「いや、だからさ……これ……」
 言いながら竜児が差し出したのは、折り目がつけられたファッション誌のページ。
 『今までの自分にさよなら!』等の文句が踊る、それは美容整形の広告で。
「そりゃ、大河がどうしてもって言うなら俺が止める筋合いじゃねえのかもしれねえけど、こういうのは失敗が怖いとかも聞くしさ……」
「竜児……それ、裏」
「は?」
「だから、その広告の裏のページのバッグなのよ、私がチェックしてるのは」
「……こういうのは普通、折り曲げた側のページじゃ」
「どっちに折ろうが私の勝手じゃない」
「そりゃそうだが……なんだ、そうなのか……よかった……」
「ねえ竜児」
「おう?」
「あんた今、私の容姿が好きって言ったわよねぇ?」
「お、おう。『容姿も』な」
「参考までに聞いときたいんだけど、具体的にはどこがどう好きなわけ?」
「そ、それは……その……」
「まさか答えられないなんてことは無いわよね? あと『全体的に』なんて漠然としたのは認めないから」



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