「ただいま……」
潜めた声に、暗い部屋からの返事は当然無く。
キッチンへ行き、冷蔵庫を開ければそこにはいつものように一人分のおかずが。
冷え切ったそれをレンジで温めながら、竜児はそっと溜息をつく。
こんな日々がどれだけ続いただろうか。
風呂を手早く済ませて寝室に入ると、二つ並んだベッドの片方で大河は小さく丸くなっていて。
足音を忍ばせながら自分のベッドに入ろうとする竜児。その背後から聞こえる小さな声。
「竜児……」
「おうすまねえ、起こし……」
振り返った竜児の目に映ったのは、眉根を寄せて目尻に僅かな涙を浮かべた大河の寝顔。
「……すまねえ、大河」
竜児はその髪を、起こさぬようにそっと撫でる。
四月二十九日。千葉の某有名テーマパークに向かう車が一台。
「いい泰児、基本戦術はヒット&アウェイよ。捕まったらスキンシップに見せかけた逆襲がくると思いなさい」
「りょーかーい!」
「おい大河……何をレクチャーしてやがる」
運転しつつルームミラーで確認した大河の表情は至極真面目で。
「着ぐるみネズミの襲撃方法」
「するなそういう教育を」
「えー? でもそういうのが許されるのって小学生ぐらいまでだし、せっかくだから……」
「園の人に迷惑だろうが。大体子供だからって許されてるわけじゃねえぞ」
「ふん、仕事仕事で家の事ほったらかしだった竜児に教育うんぬん言われたくないわね」
「おかーさん、そーゆーこといっちゃダメ!おとーさんはきょうからのおやすみのためにずっと『ザンギョウ』してたんじゃない!」
「竜河……」
「おう、ありがとな竜河。でもいいんだ、お前達に寂しい想いをさせてたのは事実だし。
だから、この二泊三日は朝から晩までたっぷりサービスしてやるからな」
「「わーい!」」
「晩までって、ちょっと竜児……」
「あー!おかーさん真っ赤ー!」
「ちょっと、泰児!」
「ほんとだ、まっかー!」
「竜河まで!?」
「おう本当だ、こりゃ見事に赤いな」
「りゅ、竜児っ!」
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