「……いいわねえ……」
 呟いた大河の視線の先には、テレビドラマの最終回。
 飽きるほどの紆余曲折を乗り越えた主人公(イケメン)が恋人にプロポーズの真っ最中。
「なんだ大河、お前そーゆーのが好みか」
「違うわよ馬鹿。私の好みっていえば北村君に決まってるじゃないの」
「おう……じゃあ何がいいんだ?」
「『お前を一生守る』とかなんとか、私も北村君に言われてみたいなあ……って」
「いや、お前は大人しく守られてるようなタマじゃねえだろ、どう考えても」
「うるさいわね、そういうデリカシーの無いこと言ってるからあんたはいつまでも鈍犬なのよ。あーあ、こんな朴念仁に惚れられたみのりんがかわいそう」
「……そこまで言うか?」
「女の子だったらね、みんな一度は憧れるもんなのよ。もちろんみのりんだってね、多分だけど」
「おう、そうなのか……」
「そうだ竜児、あんたちょっと練習してみない?」
「何だよ唐突に」
「竜児にはいつもいつも北村君との事手伝わせてばかりだもんね。たまにはみのりんとの事協力してあげる」
「いや、だけどそんなこと練習しても……」
「なによ、ご主人様のせっかくの厚意を無にするつもり?あんたはいつからそんなに偉くなったのかしらねぇ?」
「……わかったわかった、やればいいんだろ。えーと、く、櫛枝」
「はい失格」
「……まだ何も言ってねえぞ」
「あのね、今あんたと相対してるのは誰?」
「いや、だって櫛枝に言う練習なんだろうが」
「そうだとしてもね、目の前の相手を蔑ろにするもんじゃないわよ」
「……おう」
「はい、やりなおし」
「おう……大河、俺がお前を一生守る」
「……全然駄目。あのね、何も考えずに定型文を棒読みしてどうするのよ。ちゃんと自分で考えて、気持ちを込めて言わなきゃ」
「お、おう……」
「じゃ、もっぺんね」
「大河……これから一生、何があっても、俺がお前を守ってやる」
「うーん……いまいち」
「今度は何だよ?」
「竜児のくせに上から目線なのがなんかむかつく」
「完全に大河の好みじゃねえか……」
「いいからほら、もう一度」
「……大河、これから一生、俺にお前の事を守らせてくれ」
「……生涯ずっと?」
「おう、ずっとだ」
「何があっても?」
「おう、どんなことがあっても、どんな相手からもだ」
「いいわ、守らせてあげる」
「おう、よかった……」
「じゃ、今の宣言通り竜児は一生私の下僕で番犬ってことで」
「何!? そうじゃねえだろ、今のは……」
「ちゃんと録音したからね、言い逃れはできないわよ」
「あ!いつの間にお前携帯……ちょっと貸せ!」
「無駄よ、もうパソコンに転送したもの」
「な、何てことだ……」
「ふふん♪」
「人を陥れといて随分楽しそうだな、お前は……」




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