「は?お前、朝持ってるって言ってたじゃねえか。」
「だから、折り畳みが鞄の中に入りっぱなしだって思ってたの。」
「で、いざ見てみたら無かったって訳か。」
「そ。」
はぁ、しょうがねえな、と竜児は溜息を一つ。
大河は、何やらそっぽを向いて、靴のつま先を地面でくねらせている。
「だから、アンタの」
「そんな事もあろうかと、ほらよ!」
大河が言いかけた瞬間、竜児が折り畳み傘を放って渡す。
「…なんでアンタ、傘2つも持ってる訳?」
「俺は常に折り畳み傘も常備してるんだよ。」
それだけじゃないぞ、と大河仕様に携帯ティッシュやタオル、絆創膏や風邪薬まで。自慢げに大河に見せ付ける。
「お前のドジは計算済み…ぐはっ!!」
意気揚々と語る竜児にローリングソバットをかます大河。倒れこむ竜児をよそに、一足先に校舎から外へ。
その一歩目で振り返り、鋭く冷たい目線で一言。
「…鈍感犬。」
そうはき捨てて、スタスタと先に行ってしまう。
「お、おい待てよ…ったく、何なんだくそっ!」
「いやー、今のは高須君が悪いでしょ?ねぇあーみん。」
「そうねぇ。高須君って、馬鹿だから♪」
蹴られた腰を抑えながら声の方を振り返ると、実乃梨と亜美が立っていた。
「…なんだよ、馬鹿って。」
「言葉通り。」
「仕方ないなぁ。そんな高須君にいい事を教えて進ぜよう!」
実乃梨は人差し指をピンと立てて、それを竜児に突き立てる。
「人を指で指しちゃ駄目だって、教わらなかったか……?」
「ノンノン、そんな小さい事はこの際どうでもいいのだよ。いいかい高須君。大河は今日ちゃんと傘持っていたんだよ?」
にやり、となぜかニヒルな笑みを浮かべる実乃梨。
一方の亜美は心底小ばかにしたような目つきで竜児を見下ろしながら。
「これでわからなきゃただの馬鹿から祐作レベルに格上げしてあげるわ。」
「…あ。」
竜児ははっとして、あわてて大河の行き先を目で追う。もうその姿は見えない。
「悪い、俺先に行くわ。またな、二人とも。」
「おぉう、よろしく頼むぜぇ高須君!」
「はいはい、さっさと行けば。」
「ありがとう。」
満面の笑みの実乃梨と、やれやれといった感じの亜美に見送られて、竜児は大河の後を追う。
追いついたらなんて声をかけようか?それだけを考えながら。



「ちょっと竜児。もっと傘こっちに寄せなさいよ。私の肩が濡れちゃうでしょ?」
「だったら…」

「もっと、そばに寄れよ。」



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