「わあっ!海だー。ねえねえ竜児見てー」
「おおすっげー!波しぶき迫力あるな…ちょっと怖いかも」

ややあって、列車は速度を落としつつ小さな集落に滑り込んでいく。
寂れた無人駅に降りたのは、地元の学生と思しきセーラー服姿の女の子が数人。
そして…竜児と大河。

「本当に田舎よね、ここに何かあるの?」
「んー。特に何もないから、来てみた」
「何よそれ…」

轟音を立てながらのっそり出発する列車を見送ると、あとは静寂だけが残る。
二人の手には、車掌のスタンプが押された切符が握られている。

「ここなら嫌でものんびりできるだろ」
「まあ、ね」

まばらな民家の向こうから、微かに聞こえるのは打ち寄せる波の音。

「そうだ。海、見たいな。良いでしょ?」
「ん、いいよ。行こう」


のどかな休日の昼下がり、田舎独特のしんと静まり返った細い道。
海沿いの国道に出ると、眼前に広がるのは小さな浜辺と青い海。

「人…見かけないよね」
「住んではいると思うけど、少ないんじゃないかな」

さして広くない国道を渡り、海沿いにとりあえず歩いてみる二人。
都会とはまるで違う、ゆったりとした時の流れにぼうっとしてしまう。

「ねえ、駅の時刻表ちゃんと見た?」
「あー。見てないけど…1時間は無いんじゃね?次の列車まで」
「ほんと適当よね。まあそんな感じだろうけど」

それにしても、潮の香りと山の緑の匂いがこんなにも濃いとは。
響き渡る波の音もそうだ。体全体に何かがぶつかる感じがして…

「うん?どうした大河」
「えへへー。少しおねむ…んにゃぅにゃ…」

ふいに、遠くから何かの音が聞こえたと思い振り返ってみると、
甲高い音を上げて特急列車が集落を駆け抜けていく。

「もう少し…のんびりしていきますか」



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