「痛っ!」
「大河、どうした?」
「ちょっと、目にゴミが……」
「ああ、こするなこするな。取ってやるからこっちこい。左目だな?」
「んー」
 大河の頬に手を添えて上を向かせ、ガーゼを手にその瞳を覗きこむ竜児。
 と唐突に、大河はふいっと顔を逸らせて。
「……おい」
 竜児がそちらに回り込むと、またもやその顔は反対側に。
「何で逃げるんだよ?」
「いや、その……なんとなく」
「ゴミ取れねえじゃねえか、まったく……」
 竜児が顎のあたりを掴みながら再び覗きこむと、大河は今度はぎゅっと目を閉じて。
「……大河」
「……ああ、あんたが悪い!そんな極道そのものの目で睨みつけてくるから!」
「別に睨んじゃいねえし、俺の目つきに関しちゃ今更だろ。ほら、ちょっとだけ我慢しろって」
「わ、わかったわよ」
 今度こそ……と竜児が顔を近づけたその時、すうっと襖が開いて。
「竜ちゃん、大河ちゃん、おはよ〜……あら?あらら?」
  思わず固まる二人の前で、泰子の表情は寝ぼけ顔からたちまち喜色満面の笑みに。
「二人とも、やっぱりそうだったんだね〜。ごめんね、お邪魔しちゃって〜」
 まあ男女が至近距離で見つめ合っていれば、なにやら誤解されるのも無理はない話で。
「やっちゃんもうちょっと寝てるから〜、ごゆっくりね〜」
「ま……待て待て泰子!これは違うんだ!」
「そうよやっちゃん!竜児とキ、キスなんて!」
「ん〜と、30分ぐらい?一時間のほうがいいかな〜?」
「「話を聞けーっ!」」




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