「先生、これ、後ででいいから読んで下さい」
 そんな言葉と共に手渡されたのは、微妙に厚みのある封筒。
「おや恋ヶ窪先生、生徒からラブレターですか? なかなか隅に置けませんなぁ〜」
「そんなのじゃありませんってば」
 恋ヶ窪ゆり、教師生活九年目。そんな良い目(?)にあったことなど無いし、そもそも生徒は恋愛対象ではない。
 それ以前に手紙の主からして『ラブレター』などということはありえない。
 なぜならそれは、あの高須竜児なのだから。



「へっぷし!」
「おうっ!?」
 くしゃみと共に大河の箸からこぼれ落ちた卵焼きを、机に落ちる寸前に竜児の手がキャッチ。
「逢坂、大丈夫か?風邪か?」
 ぐずぐずと鼻を擦る大河を、向かい合わせに座る北村が心配そうに覗きこむ。
「んー……軽いアレルギーだと思う。少しだけど、なんか目のあたりも痒くて……」
「なんだと? おい大河、お前まさかまた部屋散らかしっぱなしにしてるんじゃねえだろうな?」
 卵焼きを大河の弁当箱に戻しながら、元実質的保護者で現婚約者の竜児は渋い顔。
 なにしろ去年の大河は息をするように部屋を散らかし、その度に竜児がせっせと掃除をしなければいけなかったのだから。
「ちゃんと片付けてるわよ。もしサボろうもんならママに『こんなことじゃ竜児君の所にお嫁に行かせるわけにはいかないわね』とか言われちゃうんだから」
「おう……」
 しばらくはサボっていたこととそれを改善するきっかけが自分への想いであったことを同時に告白されて、竜児は何やら微妙な表情に。
「それに、最近出るのは学校でだけなのよ。それも曜日ごと大体決まった時間に」
「そりゃ妙な話だな……大河、アレルギーが出る心当たりというか、なにか共通点はねえか?」
「んー……そうだ、考えたら独身の授業の時か、その後だわ」
「おう……? そういや今日のうちの四時間目も英語だったが……関係あるのか?」
「ふむ……恋ヶ窪先生といえば、この間生徒会の用事で話した時に猫を飼い始めたと聞いたが……」
「「それだ!」」



「しかし、我ながら他人の服についてた抜け毛ぐらいで症状が出るまでひどいとは思わなかったわー」
「ゆりちゃんに渡したメモに対策に有効そうな掃除のテクニックは一通り書いておいたから、これでだいぶ改善されるんじゃねえかな」
「ま、独身がきちんと実行してくれればだけどね」
「本当は俺が自分で乗り込んで掃除してえんだけど……」
「あんな独のために竜児がそこまでしてやる必要無いわよ」
「先生のためじゃねえ、大河のためだ」



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