「ねえ、お父さん、お母さん。ちょっとお願いがあるんだけど・・・・。」
「おう、なんだ?」

「ええっとね、うちにはペットいないじゃない?だからその・・・何か飼いたいなと思って。」

ちなみにインコちゃんは18年前竜児と大河が2人で暮らすようになった時に泰子が実家に連れて行って、
その後有り得ないくらい長生きしたものの10数年前に他界した。今は3代目インコちゃんを飼っているとのこと。

「ふーん、ペットねぇ。実はお母さんも昔から飼いたいなと思ってる動物はあるんだけど・・・、竜河は何がいいの?」
「ネコ飼いたいの!友達に写真見せてもらったらこれがもうどうしようもないくらいかわいくって。私もモフモフしたい!」
「あら奇遇ね、お母さんもネコ飼いたかったのよ。」
「ならちょうどよかったじゃない、ねえお父さん、その友達が子猫の引き取り手探してるんだって。貰ってもいいでしょ?ちゃんと世話するからさぁ。」

「そうだなぁ、2人とも飼いたいって言うんだったら別に構わんぞ。でも何か引っかかるんだが・・・。」
「あら竜児、忘れちゃったの?高校生の時言わなかったっけ?猫アレルギーだから飼えないって。」
「え、そうだったの!?」
「えーっと・・・・ああ!思い出した!あの川嶋達にぬいぐるみ貰った時に確か言ってたな。」

あのぬいぐるみに関しては竜児にも特別な思い出があるので忘れてはいないのだが。

「そっかぁ、ならダメだね。あきらめるしかないか・・・。」
「ごめんね、竜河。代わりって言っちゃなんだけどいいものあげるわ。ちょっと待ってなさい。」

そう言って大河は何やら物置に取りに行った。

「すまんな、俺も飼ってやりたいんだがな。犬とかじゃダメなのか?」
「うーん、私犬はあんまり好きじゃないのよねー。」
「そ、そうか・・・・。」

そう言う娘の姿を見て竜児はかつて駄犬呼ばわりされてた自分のことやバカチワワ呼ばわりされていた(現在もだが)川嶋亜美のことを思い出した。
大河ははっきりとは言ったことはないがどうも犬は嫌いらしい。やはり母と娘は似るもんだとしみじみ思った竜児であった。



「でも意外だったわ。お母さんがくしゃみしたり鼻詰まらせたりしてるの見たことないからアレルギーなんて思いもしなかった。」
「あれ、竜河は知らないのか?お母さんはものすごいアレルギー性鼻炎持ちだぞ?」
「そうなの?私ホントに全然見たこと無いよ?」

そんな会話をしてると大河が戻ってきた。

「お待たせ、はいこれ。ちょっとほこりっぽいけど洗ったら大丈夫でしょ。」

そう言ってテーブルに置かれたのはちょっと埃で黒ずんだ「手乗りタイガー」のぬいぐるみである。

「何これ、ぬいぐるみ?」
「おう、お前まだこれ持ってたのか。懐かしいな。」
「うん、お気に入りだったし、一応ばかちー達に貰った大事な思い出の品だもんね。」

「もしかしてさっきチラっとお父さんが言ってた川嶋おばさんに貰ったとかっていうぬいぐるみ?トラかしら。」
「そうよー、抱き心地がすっごく気持ちいいの!ネコ飼いたかったけどこれ抱いて我慢してたのよ。これ竜河にあげるわ。ねぇ竜児、今度洗濯してフワフワにしといてね。」
「え、思い出の品なのに貰っていいの?」
「いいわよ。私のせいで飼ってあげられないんだから。」
「ありがと、大事にするね。」

「なあ大河、洗濯するのはいいんだが、お前こんな埃っぽい物が置いてあるような物置で探し物なんかして大丈夫だったのか?」
「大丈夫って何がよ?」
「鼻炎だよ。アレルギー性の」
「あら、そういえばなんともないわね。っていうか・・・・そういえば長いこと発症してないような?いつからだろ。」

「そういや竜河もさっき言ってたな。言われてみれば俺もお前と2人で暮らし始めてからは見てない気がするぞ。」
「うん、お母さんが鼻炎持ちなんて全然知らなかったもん。」
「ってことはやっぱり竜児のおかげなのかな?」
「ああいうのって結構環境や食事で改善されるって話も聞くしな。俺はいつも家の中はきれいにしてたし料理も栄養バランス考えて作ってたから。
お前たちが飯作る時も俺が教えた料理だから俺が作ってるのと大差ないし。」

「ねえお母さん、もしかして猫アレルギーも治ってるんじゃない?」
「おう、そうかもしれないな。今度病院で検査してもらったらどうだ?」
「・・・・ねぇ竜児、もしなんともなかったら私もネコ飼いたい!いいでしょ!?」

「おう、もちろんいいぞ。」
「やった!ありがとうお父さん!」「ありがと竜児!」
「お前ら気が早いな、検査して何も無かったら、だぞ。」


「きっと大丈夫よ。そういえばお父さんはペットいなくて寂しいと思ったことは無いの?昔はインコ飼ってたんでしょ?」

「そうだなぁ、最初はインコちゃんがいない生活は違和感はあったが・・・、
うちには20年前から世話の焼けるトラがいたから寂しいと思ったことはないぞ。」
「世話が焼けるとは何よ!私だって寂しがりの爬虫類の面倒見てたからネコ飼えなくても別に寂しくなんかなかったわよ!」

「爬虫類って言うな!お前こそ寂しがりじゃねえか。毎日仕事中に何回メールしてくるんだよ、まったく。」
「何よ、嬉しいくせに!」

「もう、喧嘩しないでよ!」

まったく何年経っても困った新婚夫婦だと思う竜河であった。


後日検査に行った大河だったが、結果は見事に陰性で長年の夢であったネコを飼うことができるようになったのである。
さっそく家族揃って竜河の友人の家に伺うことになったのだが、その向かう途中ネコを飼うことを快諾したはずの
竜児の様子がどうもおかしい。なにやら渋っているようでもある。

「どうしたのよ竜児、さっきから微妙な顔して。せっかくアレルギー治ったのに喜んでくれないの?」
「い、いや、そんなことはないぞ。もちろん嬉しいさ。」

「やっぱり何かおかしいわね・・・。もしかしてネコ嫌いなの?」
「いや、そういうわけじゃなくてだな・・・・」

「・・・・あ、お母さん、分かった!(ヒソヒソ)」
「・・・あ、なるほど!」

何やら耳打ちされた大河の口が意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「ふふーん、あんた、ネコにヤキモチ妬いてるのね。」
「な、な、な何言ってるんだ、そんなことあるわけないだろ!」
「あらあら図星かしら。ネコ飼ったら私がそっちばっかり構ってあんたのことほったらかすとか思ってたんでしょ。」
「ぐ・・・・」

「バカねぇ、そんなことあるわけないじゃない。ネコはネコ、あんたはあんたよ。なんならあんたもモフモフしてあげてもいいわよ?」
「モフモフってなんだよ?俺はその・・・、ネコ構いながらでもいつもどおり
背中にもたれかかってきたりひざの上に乗ってくれたりしてくれればそれで・・・。」

「あったりまえじゃない。そうしないと私が落ち着かないもの。」


「はいはい!そこまで!まったくもう。これ以上2人とも往来の真ん中で恥ずかしい会話繰り広げるのやめてくれる?」


その日から夕食後の高須家では竜児のひざの上に大河、大河のひざの上にはネコという構図が基本スタイルになった。
その両親の様子を見て平和な家庭の幸せを噛みしめると同時に、
自分にはなかなかネコを譲ってくれない母親に若干の不満を覚える竜河であった。

おしまい。


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