「……おはよう、竜児」
「おう、おはよう」
 ドアを開けた大河の目の前に立っていたのは、コートにマフラー姿の高須竜児。
「珍しいわね、休みの朝にわざわざ迎えに来るなんて」
「いや、なんせこの状況じゃねえか……ちょっと心配になっちまって」
 応えた竜児の背後は、見事なまでの銀世界。


 さくさくと軽い音と共に、踏み出す度に長靴が足首まで雪に沈む。
「これは……ちょっと凄いわね」
「ニュースで記録的な大雪だって言ってたからな。電車もあちこち遅れたり止まったりしてるらしいぞ」
 並んで歩く竜児はさりげなく車道側、大河より微妙に後に。
「ふーん……」
 えいやっと雪を蹴り飛ばすように足を振り抜いて、案の定その拍子にバランスを崩す大河。
「わわっ!」
「おっと」
 その体をしっかりと抱き止めて、竜児は思わず苦笑する。
「気をつけろよ」
「ん。雪積もった日は何でか必ず転びそうになるのよねー」
「何でじゃねえだろ。雪無くてもしょっちゅう転びそうになるんだから、こういう時は一層気をつけねえと」
「あ〜、雪ってあんまり好きじゃないかも」
「そうか?修学旅行の時バスでけっこうはしゃいでたじゃねえか」
「あれはほら、量が量だったし旅行中の妙なテンションもあったし。その修学旅行は……結局あんなだったし」
「……おう」
「大体、雪に関してあんまりいい思い出が無いのよね。クソ親父の所出てきた時も雪だったし、あんたと二人で逃げ出して川に落ちた時だって」
「…………おう」
「あ……ぷ、プロポーズは別ね。あれは例外、ちゃんと嬉しい思い出だから。だけど、やっぱり全体的には……」
「……なあ大河」
「何?」
「せっかくだからさ、ちょっと遊んでかねえか?」
「は?何よ急に」
「こんだけ積もるなんてめったにねえんだし、どうせなら楽しまなきゃMOTTAINAIじゃねえか」
「あんたはどこまで貧乏性よ……それに遊ぶったってどうやって?」
「そうだな、流石にかまくらは無理だろうけど、ここから雪玉転がしていけばかなり大きな雪だるま作れるんじゃねえかな。
 それから北村と櫛枝と、あと皆も呼んで雪合戦しようぜ、公式ルールで」
「公式?雪合戦にそんなのあるの?」
「おう、実はあるんだよ。詳しくは北村が知ってるはずだ」
「へー……」
「ほら、まずは雪だるまだ。芯になる雪玉作って」
「こんな道端の雪使ったら汚くならない?」
「公園まで行きゃ綺麗な雪がたくさんあるだろ。それで表面覆ってやればいい」
 そうだ、哀しい記憶は消せないだろうけど、もっと新しくて楽しい記憶をたくさん作ればいい。
 一人で転べば自分自身が痛いだけだが、皆が一緒に居れば笑い話にだって出来るはずだ。



「今よ!チビトラ砲・ファイヤー!」
「おうりゃあぁぁぁ!」
「ちょっ!痛いよこの雪玉痛いよ!」
「高っちゃん、お助け〜!」
「おい大河!お前雪を強く握りすぎだ!ほとんど氷玉になってるじゃねえか!」



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