ぽちぽちとボタンを押す度、テレビに映るものはバイクに先導される駅伝ランナー、タレントのトーク、初詣の中継と変化して。
 電源を切ってリモコンを放り出し、大河は畳の上にごろんと横になる。
「あー……やること済ませちゃうと正月って意外ににヒマよねえ……特番はつまらないのばっかりだし」
「おう」
 応えながら竜児は年賀状のチェック中。
 北村のは墨跡も鮮やかに『謹賀新年』。実乃梨のは右手を顔の横に掲げたイラストと共に『がしょ〜ん!』。亜美のは自身の晴れ着姿の写真に『A HAPPY NEW YEAR』。
「ねえ竜児。竜児はおじいちゃんの所行ってきたのよね?どうだった?」
「どうって聞かれてもな……普通に年始の挨拶しておせち食って……おう、そういやおせちの作り方のコツ色々と教わってきたぞ」
「さっき食べたおばあちゃんの黒豆、美味しかったもんねえ……来年は私も行こうかしら。よ、嫁なんだし」
「そりゃこっちとしてはかまわねえし、じいちゃんもばあちゃんも喜ぶと思うけど……お前んちの都合はどうなんだよ?」
「ママの実家は元々正月には行かないし、パパの所は今年で顔見せ済んだし」
「いや、一回行ったからもういいってもんでもねえだろ……どうだった?」
「ん、いい所だったしいい人達だったよ。『新しい娘です』って紹介された時はちょっと恥ずかしかったけど」
「おう、そいつはよかった」
「お年玉もいっぱい貰っちゃった」
「そうだ、じいちゃんたちから大河の分のお年玉も預かってるんだった」
「わ〜い! ねえ竜児、懐もあったかいことだしどっかに遊びに行かない?」
「いや、今日はまだ殆どの店が休みだろ」
「そうなのよねえ……やっちゃんの新年会にお邪魔するとか」
「やめとけ、なんせ毘沙門天国と弁財天国合同だからな」
「それは……ちょっと怖いわね」
「久しぶりにベロベロになって帰ってくるぞ、きっと」
「あ〜あ、そうするとやっぱりヒマねえ……」
 大河はゴロゴロと転がって、泰子の女性誌を手に取ってパラパラとめくり、
「……ねえ竜児、あんた隠し事とかしてないわよね?」
「……なんだよ急に」
「ほら、これ」
 身を起こして開いて見せるのは、『恋人に隠しておきたい事トップ10』なる記事。
「おう……」
「『過去の恋愛』ってのが男女どっちのランキングにも入ってるわよねー。そのへん竜児はどうなのよ?」
「あのなあ、俺達が付き合い始めるきっかけは何だった?」
「……ああ、そうだったわね。それじゃ、男の人の『財布の中身』ってこれ何なの?」
「おう、そりゃあれだ、デートの時なんかに実際は厳しくても奢ってみせるとか……ま、男の見栄だ」
「……竜児はそんなこと無いわよね?」
「そりゃ、ずっと共同生活してて経済状態も知ってる相手に見栄張ってもしょうがねえだろ。それより女性で『素顔』とか『体型』とかが上位なのは……どうなんだ?」
「ほんとあんたはデリカシー無いわよねー。ちょっとでも綺麗に見せたいってのは女として当然じゃないの」
「いや、それと正体隠したいってのは別問題な気が……いずれバレることだろ?」
「バラすのは逃げられないようにしてからなのよ」
「……女って怖いな」
「もしくは、バレても逃げなかった人を選ぶの」
「……お、おう」



作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system