「……ねえ父さん」
「おう泰児、どうした?」
「俺、すっげえヒマなんだけど」
「だったらお前も服見てくればいいじゃねえか」
「もう一通り見て回ってきたよ」
「……おう、そうか」
「母さんも竜河も、一着選ぶのによくもまああれだけとっかえひっかえ出来るもんだね?」
「憶えておけ泰児、女の買い物は時間がかかるものだってな。それに、今日は荷物持ちだけで済むんだからまだマシなほうだ」
「そうなの?」
「これがデートだったりしてみろ。そのとっかえひっかえに付き合わされた上に『どう?』だのなんだの聞かれて、
 いいかげんな答え返そうもんなら無神経だのセンスがないだのあんたに聞くんじゃなかっただの罵詈雑言浴びせられるんだぞ」
「それ、後半は母さんだけだと思う」
「大河は棚に戻す時にいいかげんに突っ込むもんだから、一々直さなきゃいけねえしな」
「……それも父さん達だけだよね、多分。だけど、そんなに大変なのによく付き合ってられたね?」
「そりゃまあ、大河となら……っと泰児、ちょっと待ってろ」
「ん?」
「緊急事態だ」
 見れば、大河と竜河に何やら話しかけている若い男の二人組が。
 竜河がオロオロしているのは、傍らの大河の機嫌がみるみる悪くなっていくからのようで。
「……どっちの緊急事態なんだろうなー」

「あの連中、竜河の事を『お姉さん』、私の事を『妹さん』って呼びやがったのよ!信じられる!?」
「……若く見られたんだからいいじゃねえか」
「それにしたって限度ってものがあるわよ!あいつら竜児が来たとたんに逃げちゃったから結局誤解したままだし!」
 憤懣やる方ない大河とそれを宥める竜児。
 泰児は一つ溜息を吐くとその場を離れ、二枚のTシャツを手に戻ってくる。
「ねえ母さん」
「何よ泰児」
「そんなに誤解されるのが嫌ならさ、とりあえずこれ着てれば? 父さんとペアで」
 大河はそれを広げて見て、
「泰児……あんた今日晩ご飯抜き」
「えーっ!?」


「……大河」
「何よ竜児」
「結局着るんじゃねえか。というか、いつの間に買ったんだよ?」
「ぱ、パジャマ代りだからいいのよ」
 寝室で二人はTシャツにジャージのズボンというお揃いの格好。
 竜児のシャツには『旦那』、大河のには『嫁』とでかでかとプリントされていて。



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