「くく……くくく……」
 凶眼を歓喜にギラギラと輝かせ、端の吊り上がった口は今にも舌なめずりをせんばかり。思わず含み笑いを漏らす高須竜児に、
「竜児、あんたキモい」
「おうっ!?」
 それをジト目で見つめる逢坂大河。
「今あんた、確実に通報されるレベルだったわよ」
「いや、だって……かのう屋の割引券だぞ? それもこんなに沢山!」
「それで喜ぶのはあんただけだっての。普通は冷蔵庫とかエアコンの方でしょうが」
 そう、文化祭にて完全優勝を成し遂げた2−Cには公約通りの賞品が与えられて。
 その立役者の一人である竜児には、クラスの皆の分のかのう屋割引券が贈呈されたのだ。普通の高校生ではあまり必要が無いから、という理由もあるが。
「しかし、考えてみればこいつは春田のおかげでもあるんだよなあ……」
「そうね、あのロン毛虫がアホじゃなかったらうちの展示は他と被りまくりのコスプレ喫茶になってたはずだし」
「いや、それもあるが……プロレスショーの脚本、よくできてたじゃねえか」
「まあ、どんなダメな人間でも何か一つぐらいはとりえっていうか才能があるもんよね」
「おう、そうだな……って大河、お前何気にひどいこと言ってねえか?」
「その点北村君はすごいわよねー。勉強もスポーツもできて、生徒会活動もしてて、その上かっこいいんだもの。まさに才能の塊!どっかの家事だけが取り柄の駄犬にも見習わせたいもんだわ」
「……そうやって偉そうに言う大河はどうなんだよ。何か自慢できる才能持ってるってのか?」
「……いやだわー。謙虚な私がそんなこと自分で言えるわけないじゃない」
「誰が謙虚だ、誰が」
「ねえ竜児、何でもいいから一つ才能が手に入るとしたら、何がいい?」
「思いっきり話題逸らしやがったな……」
「いいからほら、何かあるでしょ?」
「………………いや、特には思いつかねえな」
「……今妙な間が合ったわねぇ。まさかあんた、エロい事とか考えたんじゃないでしょうね?」
「ん、んなわけねえだろ!」
「怪しい……正直に言いなさいよ!」
「言わねえ!つか言えるわけねえだろ、本当に何も無いんだから!」

 言えるわけがない。
 『大河を幸せにできる才能が欲しい』なんて思ってしまったことは。



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