「くー!」
 抜けるような青空とそれを飾る薄絹のような雲。吹き抜ける爽やかな風。
「りー!」
 辺りには木々が立ち並び、彼方にちらほらと見える紅葉が秋の訪れを示す。
「拾いーっ!」
 大河の姿はいつもと違って、ふりふりふわふわが欠片もないトレーナーにジーンズというシンプルな服装。髪はみつあみで野球帽をかぶり、さらには軍手にスニーカー、籠を背負って火挟みを手にして。
「大河……いきなり叫ぶんじゃねえよ、恥ずかしい……」
 思わず顔を赤らめて周囲を見回す竜児。とはいえ自身含めて同様の格好の人ばかり。先ほどの絶叫もあまり気にはされていないようで。
「だって栗よ栗!栗ごはんにマロングラッセ、モンブラン……」
「いや、その気持ちはわからんでもないが……」
「はっ!秋の味覚が私を呼んでいる!さっさと行くわよ竜児!」
「ああ、こら待て大河!転んだら洒落にならねえんだから走るなって!」
 騒ぎながら遠ざかっていく二人をサングラス越しに見つめながら、亜美は小さく溜息を。
「まったくあいつらは……いつまでたっても全然変わりゃしねーし」
 その肩にぽんと、後から掌が乗せられて。
「いやいやあーみん、あれで大河も結構変わってるんですぜ?」
「実乃梨ちゃん……変わったってどこが?」
「んーとね、やっぱりだいぶ丸くなってるよ。大学でも結構友達作ってるみたいだし」
「へー……あのタイガーがねえ」
「それから、料理が上手になりました!この間御馳走になったんだけど、手際もずいぶんよくなってたよー」
「そういや高3の時から高須くんに習ってるって言ってたっけ」
「愛の力って偉大だよねー。もう幸せそうでさー、ほとんど新婚状態?」
「つまり、やっぱりバカップルっぷりは変わってないってわけね……」



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