今年も12月に雪は降らない。

 サンタは多分やってこないし。
 人知を超えた奇跡もまた、起きないだろう。
 学生がテストに喘ぐのも変わらないし、受験生が憎々しげに街を見渡すのも同じ。
 半日授業になった中学生が詰襟を寄せて、白い息を街へ撒き散らし、悪態をつく。

 今年も、変わらないのだ。

 風は冷たい。陽は短い。吐く息も、いい加減みんな真っ白。
 11月から気温は加速度的に落ちて、もこもこと人並みが着膨れしていく。

 セーター、コートにマフラー…手袋は…ううん、要らないや!

 まだかな、まだかな。
 背を丸くして、かじかむ手を、すり合わせる。
 ああ、さむいさむい。
 赤いマフラーに、白い息がとける。

 日の落ちる前から無数の白ひげは町並みを闊歩して、買い物袋を手にした主婦に、バイト帰りの若者に、駅から吐き出されるスーツの男たちにケーキを売りつける。
 あれがいくらか売れ残って、明日半額で売られるのもまた、変わらない。

 そういう変わらないことは幾つもあって、私の身長もずいぶん昔から、これもまた変わらない。

 140センチそこそこの視線から映る街は、騒がしく、雑然としていて、全ていつものクリスマス。
 寒さを理由に身を寄せ合う恋人も、子供へのプレゼントを抱えて帰る父親も、美味しいご飯を作ろうと意気込む母親も、サンタを信じている子供も。
 みんながみんな、とても幸せそう。

 鼻まですっぽりと顔をマフラーにうずめ、他人事のように私はじぃっと街を眺める。
 確かにそうだ、他人事だ。
 忙しなく歩く人も、イルミネーションを見上げる人も、みんな私とは他人で、彼らの幸せは、私とは関係ない。
 全部が、全部、他人事だ。それはずっと、変わらない。

 彼らはみんな、このクリスマスを他人事の幸せで彩るのだ。

 たたたたと、小走りの音が街路を叩く。
 冷えた色をした空気に、見慣れた人影。

「悪い!!待ったか?」

「遅いぞ馬鹿犬!あまりの寒さに凍りそうだわ!」

「すまんすまん」

 誰かとは違う、幸せがここにはあって。
 きらきら輝くイルミネーションに、眩しそうに仰々しく顔を上げなくてもよくなった。
 これは本当に大きな変化で。私もこのクリスマスにやっと滑り込めたみたいで。

 雪は降らなくても、サンタがこなくても、死ぬほど寒くても、背が伸びなくても。

 あなたが隣にいれば、私は幸せ。

 ぎゅうっと握った手は、部屋まで離れない。




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