海沿いの小さな浜辺が視界から消えて、窓越しに緑が近づいて来る。
さっきまで唸りを上げていたエンジン音が途切れると、がらんとした車内に
五月蝿くない程度のくぐもった音が響き渡る。

「ねえねえ竜児、晩ご飯はここでしか食べられない高級和牛でしょうね」
「人の話聞いてねーのか。海鮮って言っただろ、魚だっつうの」
「でもお肉も出るよね一品ぐらいあっても罰は当たらないわよ」

旅先でも変わらない大河の様子を見て、竜児はふっと表情を緩めると
再び視線を車窓に移す。

「ちょっと竜児聞いてるの?魚も良いけどやっぱりお肉よお・に・く!」
「そもそも肉自体メニューにあったかどうか…」
「んもーこれだからあんたは役立たずの駄犬なのよ」

車内を照らす蛍光灯はほんのり黄色味を帯びていて、ふわふわの長髪は
普段の亜麻色とは違った雰囲気を醸し出している。

「たまにはDHAを摂取して頭の回転を良くしようぜ」
「まあ、あんたがそう言うのなら魚でも構わないけど」

ぷうと口を尖らせると、不意に竜児のおでこを指で弾く。


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