「ただいまー」
「おかえりなさーい!」
 返事と共に漂ってくる美味しそうな匂い。
 覗けば、並べられた料理の数々とキッチンに向かうエプロン姿の大河。
「何か手伝うか?」
「んー、大丈夫。もうすぐ出来上がるから、先に着替えてきて」
「おう。しかし、こりゃすげえな」
「そりゃもう、初めての結婚記念日なんだし、今日は思いっきり贅沢しないと」
「しかし、そうするとこいつが入るかな……?」
「え?」
 振り返った大河は、竜児の手元を見たとたんに驚愕に目を見開いて。
「竜児……その箱、何?」
「おう、見ての通りのケーキだ」
「でも、そんなの用意してるなんて一言も言ってなかったじゃない」
「大河を驚かせたくてな、こっそり注文しておいたんだ。……大河?」
 その時竜児はやっと気づいた。
 ケーキの箱を見つめ続ける大河の表情が、喜びではなく呆然としたものであることに。


「ごちそうさま。美味かったぜ、大河」
「ん、ありがと竜児。さーて、問題はコレよね……」
「おう……」
 テーブルの上には丸いケーキが二つ。その大きな方には『1st Anniversary』と書かれたチョコレートの板と新郎新婦を模した小さな人形が。
「すまねえ……まさか大河も準備してるとは思わなくて」
「謝ることじゃないわよ。だけど、もっと小さいのにできなかったの?」
「おう、メッセージ入れられる最小サイズがこいつでな」
「さすがにこれ両方全部は無理よね」
「おう……仕方ねえ、片方は明日食べるか」
「そうね……ってちょっと竜児!」
「おう?」
「なんで竜児の方をしまおうとしてるのよ?」
「いやだって、あれだけ食べた後なんだから今日は小さ目の方がいいじゃねえか」
「そのぐらいは入るわよ。それより私のやつの方が冷蔵庫の場所とらないし」
「別にスペースに余裕無いわけじゃねえだろ」
「でも……せっかく入れてもらったメッセージが意味無くなっちゃうじゃない」
「そんなこと気にするなって」
「……あーもう!竜児が買ってきてくれたのを明日に回したくなんて無いの!それぐらい気づきなさいよこの鈍犬!」
「何だと?大河がせっかく作ったケーキを残す方がよっぽどありえねえだろうが!」
「その作った本人が明日でいいって言ってるのよ!」
「いーや、よくねえ!俺は大河のやつが食べたいんだ!」
「この……頑固者!!」
「どっちがだよ!!」
「うー…………わかったわよ、とりあえず食べるの私のからでいいわ。結婚記念日にこんなことでケンカしたくないし」
「……おう」
「ただし!腹ごなしとカロリー消費に運動して、朝までには竜児のもちゃんと食べるからね!」
「……おう?運動って、今からか?」
「そうよ、本当はもうちょっとのんびりしてからのつもりだったんだけど……覚悟しなさい竜児、一晩での回数の新記録目指すからね」




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