今夜はきっと誰もに幸せ訪れる。高須竜児や逢坂大河の元へもきっと。



「エ〜ンジェ〜ル カム トゥ〜ユ〜♪」
「お前その曲ほんとお気に入りだな。最近そればっかりじゃねえか」
「あら、竜児は嫌いなの?」
「いや、俺も好きだよ。曲そのものもなんだが、なんというか今年の俺たちにぴったりな気がしてな」
「でしょでしょ?」
「おう、お前のオススメにしてはなかなか良いセンスだ。」
「どうも引っかかる言い草ね。でも私が見つけてきたんじゃないのよ。能登とアホロン毛がとにかくこれ聞いてみろって無理やり押し付けてきたの」
「なるほど、あいつらか。でも能登はプログレばっかり聞いてるイメージだったから意外といえば意外だな。」
「もらったCD-Rにプログレも何曲か入ってたわよ。なんかのクラシックをアレンジしたとか言ってたっけ。そっちはあんまり聴いてないけど。全部音楽ゲームかなんかの曲らしいわ」
「そういや時々あいつら音ゲーの話してたな。」

「それにしてもせっかく歌どおりにやってみようと思ってたのに全くあんたってば…」
「なんか俺まずいことしたか?んーと…、もしかしてさっきコソコソ隠れてたアレか?」
「そうよ。ドキドキする間もなくあっさり見つけちゃうなんて」
「お前が隠れるの下手なんじゃねぇか。なんか待ち合わせ場所にいないと思ったらツリーの陰からコソコソこっち見てやがるし。体だけ隠してもその長い髪とかフリフリの服とかが全然隠れてねぇんだよ。」
「え、そうだったの?」

「そういやお前が俺のかばんにラブレター入れた日もそうだったな。あんときゃ気付かないフリしてたのに自分から転がり出てきやがって」
「もう!くだらないこといつまでも覚えてんじゃないわよ!」
「一生忘れねえよ。あれが全部の始まりだったんだからな」
「ふん、まあいいわ。そんなことより続きやるわよ。(グッ)」
「続きって何の?どうしたんだ、急にそんなに背伸びして」
「歌の続きに決まってるでしょ、この鈍犬!私が背伸びをしたらどうして欲しいんだっけ?」
「ええと…、ああなるほど、ほんとにあの曲は俺たちにぴったりだったな。いいんだな?息が止まるほどやっても?」
「当たり前じゃない、ほら足疲れるんだから早く!」



「『今夜は二度目のクリスマス』…か」
「知り合ってから、はね。実質的には今年が初めてみたいなもんかも」

「…ほんとに去年はすまなかったな、お前の気持ちに気付いてやれなくて。」
「なんで謝るのよ。私はすごく嬉しかったよ。あの日あんたのおかげで一人じゃない、自分を見てくれる人がいる、って理解できたんだから。」
「そうか、でもやっぱり俺はあの後お前を1人にしていったのは間違いだったように思えてしょうがないんだ」
「ほんとにもういいのよ。私の気持ちに気付いてなかったのは私自身も同じだったんだから」
「…それはお互い様だな。」
「私にとっては去年の12月24日は自分のほんとの気持ちに気付いた大事な日だったのよ。だからあれはあれでよかったの。」
「ん?ってことは大河…、お前…」

ふと大河の言葉に竜児は引っ掛かりを覚えた。大河が自分の本当の気持ちに気付いた夜。すなわち高須竜児が好きだと気付いた夜。その夜に自分は大河を置いて何をしに行ったか。
そして大河はこうも言った。『自分は一人じゃないって理解できた』と。とても嫌な予感がする。やっぱり自分はとんでもない間違いを犯してしまったのではないだろうかと。

「もう、湿っぽい話はもういいでしょ!せっかくフィアンセと過ごすクリスマスなんだから楽しむのよ!」
「お、おう…それもそうだな。なんか食いたいものあるか?今日は間食くらい大目に見てやるぞ」
「そうこなくっちゃ!んーっと…ドーナツ食べたい。やっぱりエンジェル大河さまには天使の輪が必要よ」
「お、今年もエンジェル大河なのか。」
「そうよ、今年こそはハッピーなクリスマスをプレゼントするの。もちろんあんたによ。『angel comes to you!』」
「はは、確かにお前は天使だよ。俺はお前が傍いるだけで十分幸せだ」
「私もよ。…これからもずっと傍にいてくれるよね?」
「おう、もちろんだ。もう絶対一人にはしないよ」




「なあ大河、お前のお気に入りの例の歌のことなんだが1箇所だけ気に入らないところがあるんだ」
「どこのこと?」

「『いつか二人に終わりが来るのなら〜』ってとこだな。俺たちに終わりなんか来ないだろう」
「ああ、あそこね。…でもどっちかが先に死んじゃったらどうする?」
「そんな不吉な事言うなよな。俺はお前がいなくなったら生きていく自信ないぞ」
「私も嫌よ!先に死んだら殺すからね!」
「どういう意味だよそれ…」

「細かいことはどうでもいいの。でもその続きの『たった一人のあなたが宝物』っていうのはそのとおりじゃない」
「ああ、あの部分は俺も同意だ。…大河はかわいいな。俺の宝物だ」
「…そんなことを言われては困ってしまいます…、って何言わせるのよこのバカ!」
「お前こそなんでそんなネタ知ってるんだよ。やっぱ伊達に櫛枝の親友じゃないな。ともかく、さっきも言ったが俺とお前は死ぬまで一緒だからな」
「死ぬまで、じゃない。死んでも、よ。星になっても。生まれ変わっても、ずっと」
「ああ、俺たちは竜と虎だからな。未来永劫一緒だ」
「…今度一人にしたら許さないからね」

「分かってるさ。…って、お、雪だ」
「ほんとだ、ホワイトクリスマスなんて最高ね!…でもちょっと寒いかも」
「そうだな、マフラー貸してやろうか」
「…ほんっとに気が利かないわね。震える私はどうして欲しいんだっけ?」
「…ああ、すまん。こうだったな(ギュ)」


二人手をとってこの先の長い人生を一緒に歩んでいく、竜児と大河はそんな幸せな未来を思い描きながらも、その未来を手に入れるには目前に迫った受験、さらには就職と困難を乗り越えて行かなくてはならないことも理解している。

今はただ、つのる想いを雪の舞う風に乗せて…


END




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