「……できた」
最後に自分の名前を書いてペンを置き、大河は便箋を丁寧に丁寧に畳む。
それを薄い桃色の封筒に入れようとして、
「封筒と中身の両方に名前書くのってどうなのかしら……変にアピールしてるみたいに思われたりして……」
くしゃくしゃと握り潰し、新しい便箋を取り出して再びペンを持つ。
「はあ……」
手にした封筒を眺めて、竜児の口から漏れるのは深い溜息。
そこにあるのは『櫛枝実乃梨さま』の文字。
勢いに乗って書き上げるまではいいのだけれど、決まって少し後に来るのは軽い自己嫌悪。
「渡せるわけでもねえのに……」
傍らに転がる紙屑はさらに数個。
「うん、今度こそ……大丈夫、よね」
何度も読み返して、完璧だとは思うのだけど。
「でも、どうやって渡せば……直接なんて絶対無理だし……」
応える者の無い問いを呟きながら、畳んだ便箋と封筒を机の引出しへ。
二年になってから接する機会が増えて、それはそれで幸せなのだけど。
本当はもっと普通に話せるようになりたい。できれば友達になりたい。叶うならば恋人に。
だけど今やっていることといえば、小さなダンボール一杯のノートにメモにエトセトラ。あと封筒が三つ。
「我ながら情けねえよな……」
呟いて竜児は再び溜息を。
疲れた顔でベッドに倒れ込み。
イスを軋ませながら大きくのびをして。
「こんなこと、相談できる人なんて…………いないもんね……」
「こういうことを話せる相手がいれば、ちょっとは楽なんだろうけどな……」
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