蓋を開けた瞬間、思わず固まる大河。
 確かに昨晩のケンカで物理的に黙らせたのは悪かったと思う。
 でもそのことはちゃんと謝ったし、竜児も気にしていない様子だったし……
 いや、思い返せば妙に爽やかな笑顔だった気がする。
 それがまさか、こんな復讐を用意していたからだったとは……
「おおーう、見て見てはっちゃん!大河ちゃんの弁当すごいよー!」
「これは……伝説の愛情弁当というやつか。実物を見るのは初めてだ。
 ところで綾、大学生にもなって『はっちゃん』はやめろと言ってるだろう」
「ぶー、はっ……香澄ちゃんは細かいんだからー」
 向かいに座る友人二人の言う通り、正に『愛情弁当』と呼ぶのがふさわしい。
 ご飯の上には桜でんぶででかでかとピンクのハートが描かれていて、その上細く切った海苔で『LOVE大河』の文字が。
 さらにはおかずの中ではハムとポテトサラダと、どうやったのか卵焼きまでハート型。
 コレを人前で開けさせるとは、なんという酷い辱め。
「あ、あの馬鹿犬……!」
「あー、大河ちゃん食べるのちょっと待ってねー。写メるからー」
「ふぇっ!?ちょ、だ、ダメっ!」
「へへーん、もう撮っちゃったもーん。だけどホントすごいよねー。自分で作ったのー?」
「そんなわけないだろう。こういうのは普通、そうだな、恋人とかが用意するものじゃないのか?」
「へー、大河ちゃん恋人いるんだー」
「恋人っていうか……こ、婚約者、なのよ」
「えっ!?」
「ほう、それなりに深い関係だろうとは思っていたが……」
「それはダメだよ大河ちゃん!」
 突如ずいっと身を乗り出した綾に大河は目をぱちくり。
「失敗だよ間違いだよ早過ぎるよ!大河ちゃん可愛いんだからよりどりみどりじゃん!今から一人に決めちゃうなんてもったいないよ!」
「え?ええ?」
「お前と一緒にするな」
 どびしっ!と綾の後頭部に振り下ろされるチョップ。
「香澄ちゃん痛い……」
「綾みたいに男をとっかえひっかえするのが当たり前じゃないんだぞ」
「とっかえひっかえじゃないもーん。本当に相性のいい人捜してるだけだもーん」
「大体だな、早いとか遅いとかは関係ないだろう。小学生だろうが高校生だろうがおばさんだろうがお婆ちゃんだろうが、然るべき時に出会うべくして出会っちゃうもんなのさ、運命の相手ってのは。なあ大河、そうだろ?」
「う、うん」
「それでだな大河、作品の参考にしたいんで、是非とも詳しい話を聞かせてもらいたいんだが」
「へ?」
「あー、大河ちゃんまだ知らなかったっけ。香澄ちゃんってば小説書いてるんだよー」
「えええ!?」




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